冷酷王太子はじゃじゃ馬な花嫁を手なずけたい
「いいだろう」


どうしたらいいの?

俊敏さが元に戻ったとは言い難い今、できることは知れている。
でも、私のせいでシャルヴェさまになにか起きては困る。


「壁の方を向き、手を挙げて立て」


男は私にナイフを向けたまま、シャルヴェさまにそう指示を出した。


「早くしろ」


今よ。今なら、シャルヴェさまに目が向いている。
私は思いきってナイフを握る男の手に噛みついた。


「い、痛っ! お前、なにしてやがる!」


いっそう力を込めて噛みつくと、やがて男の手からナイフが転げ落ちた。

そして、その瞬間を見逃さなかったシャルヴェさまは素早く剣を拾い、男に剣先を向ける。


「なっ……」

「リリアーヌ。離れて目を塞げ」


私はシャルヴェさまの声と共に離れ数歩下がり、目をそむけた。


「うあぁぁーっ」


するとすぐに、男の断末魔の叫びと共に、生暖かい赤褐色の液体が飛んできて私のドレスに散った。

シャルヴェさまが男を切ったのだ。
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