冷酷王太子はじゃじゃ馬な花嫁を手なずけたい
「パンもございます。このパンは、彼女――リリアーヌが作りました」


シャルヴェは唐突に私を紹介してくれた。


「今日はバスチューではないのか」

「はい」


私はベッドに一歩近づき、国王さまの目を見つめた。
けれど、その目は力なく、視線は宙にさまよったまま私の姿をとらえようとしない。

見えていない?

ハッとしてシャルヴェを見上げると、彼は大きくうなずいた。


「こちらに」


シャルヴェは私が夕食をテーブルに置くと、国王さまを起き上がらせてイスに誘導する。
そしてフォークを握らせ、説明を始めた。


「ここにパン。そしてその隣の皿がチキン。トマトのスープはこの位置です」


シャルヴェは丁寧に国王さまの手を動かし、場所を示していく。

すると国王さまはなにも言わずに一心不乱に食べ始める。
しかし、目が見えないせいもあり、ポロポロとこぼれてしまっている。
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