冷酷王太子はじゃじゃ馬な花嫁を手なずけたい
だけど、それをうらやましいとは思わない。
今の生活が十分に満たされているからだ。

母は第二夫人とは名ばかりで、国王の血を引く私にも特に特別な警護がつくというわけでもなく、生活もごくつつましかったけれど、それでも私は幸せを感じている。


私がそんな存在だと知らない友達と一緒に野山を走り回り、毎日着る物を泥まみれにし、小さな頃から馬を乗りこなし剣術まで学んだ。

食べ物は、豊かな大地のおかげで困ることはなかったし、多くを望まなければ十分楽しく生活できた。


それなのに、十八歳と七ヶ月。
突然国王から呼び出され、他国へ嫁ぐように言われたのだ。


王宮を離れて暮らしていたとはいえ、次に他国に攻められれば陥落の危機に陥るであろうことは耳に入っていた。


そうなってしまえば、自分の父である国王が死ぬかもしれないと覚悟だけは決めていたけれど、周りには戦いで父を亡くした子供たちが数えきれないほどいて、そういった感情を表に出すことはできなかった。

辛いのは、皆同じだったからだ。
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