わかめ女子のしょっぱい日々
決して…決しておばあちゃんを言い訳にするわけではない。
「加奈子なんで彼氏つくらないの?」
私はいつもこう答える。
「んー、今はまだいいかな…」
おばあちゃん…貴方の孫は26歳にして未だ色恋に憧れが持てないでいます。
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「まだってアンタ…彼氏居たことないでしょうが…」
「そうだね…どうせしょっぱい人生ですよ、ここ数年の記憶は会社と家との往復…たまに友達と遊んで…うん、十分よ、幸せ幸せ。」
「いやいや、目!!ちょ、どこ見つめてんの!ごめんって、戻ってきて!」
この手の話題すら上手く乗れない。
明るい店内に影を落とし遠くを見つめて現実から離れようとするも長年友達である美智代に引き戻される。
私こと菅原加奈子、26歳、独身。
大学出てからは大手薬品会社の営業事務をしている。
友人の原田美智代は同じ会社の同期…というか、高校から大学も同じという腐れ縁である。ただ彼女は総務課なので平日はお昼を一緒に過ごすことしか出来ない。
そんな本日の彼女は明るめの髪をコテで巻いたお嬢様パーマでエレガントなおでかけスタイルである。
ばっちりメイクに可愛らしい花柄ワンピにカーディガン…いつナンパされても恥ずかしくない。
一方、私はと言えば男受けとしては若干物議を醸しそうな…彼女の後には説明する気も起きないような良く言えば森ガール、悪く言えば地味な全体的に無印な感じの服装である。
本日は土曜日。
久々服でも見たいと言い出した美智代に付き合って街に出てきたものの、これといったアイテムも見つからずに疲れた足を休める為にカフェでダラダラとしに来た所だった。
「加奈子は顔は悪くないし、肌も綺麗なのに…ただ、今日もだけど!会社でも化粧が最低限過ぎるわよ!せめて差し色は濃いめに入れればいいのに見えないほど薄いアイシャドウって何?!いい男捕まんないわよ?!」
「いやいや、美智代ちゃん、会社はお仕事する所ですよ?」
「おばか!何のために苦労して大手入ったのよ!正社員なら年齢平均年収以上の男確定なんだから狙っていかなきゃ損じゃない!」
「そ、そんなこと言われたって…」
ありえない…と嘆く私。まぁそうだなぁ、彼女の携帯アドレスには少なくとも30人ほどはお友達と言う名のキープ君が居るらしいが、私にはとても真似できない…。
「私はこのままでもいいかなぁ。」
「もう…アンタの王子様とさっさとくっつきゃいいのに!」
「え?誰それ…」
既に私の興味は薄い。
私はそこでようやく頼んでいたホットロイヤルミルクティーに手を伸ばした。
熱いのは苦手だけどホットが好き。
ふーふーしてからちょびっとすする。
うん、美味しい。
はぁ、と呆れたようにため息をこぼす美智代は頬杖をついて言った。
「誰って、アンタが喋る男なんて里中さんくらいでしょうよ。」
「え…いやいやないない里中さんにも人権?というか選ぶ権利があるから…」
ははは、と軽く流してこれまた頼んでいたケーキにパクつく。
ここのカボチャのタルトは年中あるけれど、いつ食べても美味しい。うんうん。
「何言ってんの、私以外の周りはだいたいがカップルだと思ってるわよ。」
「もうーみんな噂好きだなー、」
「全くこの子ったらなんでこうなの…ちったぁ興味持ちなさいよ。」
ふふふ、いいのいいの。
変わらないのが一番安心。
『生まれ変わったらお父ちゃんとは結婚しとうない』
また、子供を7人も産んだおばあちゃんが放った一言がちらつく。
うんうん、おばあちゃん。
確かにショックだったけど。
おばあちゃんの気持ち、なんだかわからないでもないの。