星の涙
お神輿だ。大人神輿が近くまできてる。  

「はい、しばらくお待ちくださーい。お神輿が通りまーす。ご協力くださーい」

警備をしている警官が数人、あわただしく行き交い、歩行者に注意をうながした。

その場にいた人たちが歩道ぎりぎりまでさがり、道をあける。

わたしたちも道のはしのほうによけた。少しずつ近づいてくるお神輿と、「わっしょい、わっしょい」という声が空気を揺らす。

カメラを構えてお神輿と一緒に移動してくる人もたくさんいた。

ほとんどの人がお神輿に夢中で、とまってよけているわたしたちにぶつかっても気にせずに通り過ぎていく。

慣れない下駄のせいで、ふんばりがきかなくて、その流れの勢いに押されてよろめいてしまうわたしの腕を颯太くんがつかんだ。わたしもこのままだと流れにのまれて、はぐれてしまいそうで、思わず颯太くんの腕にすがりついてしまう。それでも、何度目かよろめいたとき、颯太くんは見かねたのか、手をのばしてわたしの右肩を抱いた。わたしは左側にいる颯太くんに密着する形になって、ドキドキした。

「あ、あの、大丈夫だから」

「さっきからよろよろして、全然大丈夫じゃないだろ」

少し怒ったような声で颯太くんが言った。

「あぶないんだよ、まじで」

お神輿が近くを通るときは歩行者も一気に増えて、混雑も熱気もピークになった。わたしは少し身の危険を感じてこわくなった。

と、そのとき颯太くんがわたしと人ごみの間を遮るように、わたしの前に立った。
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