一輪の花を君に。
美空にまだ、心に深い傷があるなら、それを癒す抱えきれないほどの包帯は用意してある。



1度、美空のことを知ってしまったら、放っておけるわけがない。



てか、患者の心まで踏み込まないのに、一体どうしちゃったんだよ。




美空に触れて、加速する心臓の鼓動。




大人びた表情に、俺の身体は一気に熱くなっていって、最初の診察の時、正直冷静に判断することができなくなるんじゃないか、内心ひやひやしているところがあった。





なんだよ。




なんだよ、この胸の痛みは。




彼女を見ていると、不思議な感情になる。




放っておけなくなる。






でも、これだけははっきり言える。





俺はきっと、彼女の笑顔が見たいってこと。





一生かけて、彼女を守りたいってこと。





それが、医者としてか、1人の男としてか分からない。




そんなことを考えていると、美空は目を覚ました。





俺は、少しだけ彼女から離れた。





俺が、彼女を苦しめてどうするんだよ。





「美空。」




七瀬先生は、優しく美空を抱きしめていた。




「先生…。ごめんね、取り乱して。」




美空は、申し訳なさそうに謝っていた。





「美空は、謝る必要ないよ。」





気づいたら、俺はそう言葉にしていた。




丸い目をして、驚いたように俺のことを見る。




「俺が、最初から近すぎたんだ。ゆっくりでいい。少しずつでいいから、慣れていってほしい。慣れてもらえるために、俺も頑張るから。」




「中森…先生。」




美空は、初めて俺のことを呼んでくれた。





たったそれだけが、俺にとってはすごく嬉しかった。

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