一輪の花を君に。
自分でも分かるくらいに、小刻みに震えていることが分かった。




大丈夫。



落ち着いて。


私は、自分に言い聞かせる。



「ありがとう。よく頑張ったね。」





先生は、そう言ってから、記録をして私から離れて椅子に座った。






「あの…。」





「どうした?」





「…この花。」





私は、花瓶に飾ってあった1輪の花の存在が目に入った。





それが、ずっと気になっていた。




「あー、それはちょっとした君へのプレゼント。」





「…どうして?」





「七瀬先生から、聞いたんだ。施設で育てているお花の世話をしているってことを。昔から、美空は花が好きなんだろう?」





「…好きじゃない。」





「え?」






「花なんか、もう好きじゃない!」





私は、思わず花瓶に飾られた一輪の花を、床頭台に投げつけた。





花瓶の割れた破片が、私に飛び散ったみたいで頬から血が流れていた。





「美空!」





「え…大翔?なんで?」





「大丈夫だから。」




大翔は、私の頬にハンカチを当ててくれた。





「先生!早く手当を。」




大翔にそう言われてから、先生は救急箱を取りに行って5分もしないうちに戻ってきた。





「怪我、見せて。」




「触んないで!」




私の頬に触れた先生の手を、思いっきり振り払っていた。




もう。



嫌だよ。





苦しい。






「美空!?」





大翔に呼びかけられても、反応できず私は先生にもたれかかるように全身の力が抜けていった。





「しっかり!」




なんとか、意識は保っているものの、呼吸は苦しくて仕方なかった。





怪我の手当てが終わったからは、私は口元に紙袋を当てられた。





「ゆっくり、深呼吸して。大丈夫だから。」





「先生、美空震えてるけど。」





「大翔君が、美空のことを安心させてあげて。まだ、怖いみたいだから。」





「分かりました。」
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