一輪の花を君に。
美空の一言一言は、俺にとってはどれも心に響いてきた。




「無理に、慣れようとしなくてもいい。美空が俺をまだ怖いと思うなら、無理に診察も受けなくていい。けど、これだけは言わせて。



俺は、美空のこと信じてる。」






「信じるって何?



信じても、結局は裏切られる。



私に、中途半端に関わらないで!」





そっか…。



ようやく、少し分かったような気がする。




きっと、施設で色んなことを知ってきたはずだから。


身勝手な大人に、理不尽な大人。


攻撃的な周囲の大人に、うんざりしていたはずだ。


周りの大人は、施設に預けられている子供を見ると可哀想だと思っている。


だけど、それは他人だから抱ける感情。


自分のことじゃないから、言えること。


だから、簡単に口にする。


そんな大人達の、上辺だけの優しさに苦しめられてきたんだろう。



たくさん、傷ついてきたのだろう。



そういう体験をしてきた美空は、周囲に心を閉ざし、自分を何年かけても守ってくれるような人にしか、心を許してこなかった。



これは、あくまでも俺の推測。




だから、美空はずっと守ってくれる大人にしか心を開いてこなかった。




永遠が、約束されている大人にしか。




だから、美空はずっと診てくれた七瀬先生や、施設長の千鶴先生、それから担当の西条先生にしか自ら声をかけたりしなかったんだ。






「美空、俺は美空が思っているほど、美空のことを他人として見てないよ。」






「え?」




俺が、美空に抱いている気持ちがバレてもいい。




だけど、俺はどんな時でも美空のことを支えていく。



その覚悟が、俺にはあることだけは分かってほしい。



俺に、医者としての一線を引いてほしくなくてそう言葉にしていた。
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