一輪の花を君に。
「ぐずぐずしてると、他の男に美空取られますよ?」






「えっ?」





「美空、可愛いし優しいから男子からモテますよ。あの子は、自分が可愛いことを自覚してないから。尚更、危ないかと。」





「そうだよな。俺も、頑張らないとな。」





「でも、美空は中森先生にだけは本音を話せてると思います。」





「そうなのかな。徐々に美空は、怖がらなくはなってきたけど、やっぱり触れるとまだ震えている時があるんだ。」






「お父さんに、散々なことをされたから。」





「香音ちゃんは、美空から受けてた暴力を聞いたことあるの?」





「ないです。ただ、私は美空がお父さんに虐待を受けてたということしか聞いてません。それに、私だけじゃなくて同い年の子も。もしかしたら、千鶴先生にも言ってないと思います。本人から直接なんて、聞いた人はいないと思う。」





「そうだったのか。」




美空の過去には、誰も触れてないのか。




触れてないというよりも、美空自身が話せてないのかもな。





それくらい、美空が負った心の傷は深い。





だからこそ、人を信用しなくなって愛情を求めることをやめたんだもんな。





人と深く関わって、裏切られることを恐れていたんだもんな。





きっと、美空の中で人と関わる上で自分で他人としての一線をひいて、誰かが心の中に入ってくることを避けていたんだよな。





いきなり、近寄られたらそれは怖いよな。





「香音、七瀬先生知らない?」





そんなことを話していると、美空がリビングへ入って来た。





「見てないけど、どうかしたの?」





「今日は、1日バイト入ってるから。」




「バイト!?」




思わず、大きな声を出してしまった。





美空はたしか、まだ15歳だよな?





「あれ、先生知らなかったんですか?」





「何のこと?」





「香音、お願い。言わないで。」




「あっ、ごめん。」




「すみません、失礼します。」




美空は、急いで部屋を後にした。




バイトって、どういうことなんだよ。





体調も、安定してないのに余計に無理をしてバイトをしているのか?





「美空!香音ちゃん、ごめん。」





「はい。また後で。」
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