一輪の花を君に。
#6
ーside中森ー




「美空ー!!」



海岸へ行っても、千鶴先生の畑へ行っても美空の姿はなかった。





どこ行ったんだよ。





頼む、無事でいてくれ。





変な気は起こさないでくれ。




美空がいない人生なんて、考えられない。






それだけ、君の存在は俺にとって特別なんだ。






美空と、ようやく打ち解け会えてきたと思ったのに。






どうしてだよ。






海岸で、しゃがみこんだ時ポケットの中にあった携帯が鳴った。






「親父か。何?」







「急患だ。すぐに来てくれ。」






「それどころじゃないんだよ。」







「いいから。お前の大切な人が、待ってるんだ。」







「え!?」






それだけ言うと、親父は電話を切った。







急いで、病院へ向かうと美空のためにいつも開けてある病室に、ずっと会いたかった美空の姿がそこにあった。






きっと、発作が酷かったのか顔がいつも以上に真っ白で、唇も真っ青になっていた。







「今、酸素カニューレで酸素を送っている。ただ、発作が酷かったから疲れてすぐに寝てしまった。」






「よかった…。本当によかった。」







美空の存在を確認するかのように、俺は眠っている美空を優しく抱きしめた。






「美空ちゃん、ずっとお前を呼んでたよ。」






「俺のことを?」






「ああ。」






「美空。」






「相当、美空ちゃんもお前に心を許してきたんだな。目が覚めるまではここにいてやってくれ。明日は、休みでいいから。誠が診ている患者さんは、1日だけ他の医師に任せるから。」






「いいの?」






「いいよ。


目を覚ました時、傍に誠がいたら安心するよ。それに、誰もいなくなったら不安になるだろう?」







「ありがとう。」






「美空ちゃん、よく頑張ったね。」






親父は、美空の前髪を撫でてから病室を後にした。







売店で、美空の好きな花を買ってくるか。








美空は、白い百合の花が1番好きだってことを聞いたことがあった。







それをきっかけに、美空が発作を起こした時毎回花瓶に1輪の百合の花を、飾るようにしていた。






少しでも、美空の心が安らぐように。







病気が治るように。






花言葉は、きっとそうじゃないんだろうけど、その思いは、俺がこの1輪に込めた願い。





綺麗な寝顔にうっとりしながら、俺は美空の隣に置いてある椅子に座り、美空のベッドに頭を任せるように、眠りについた。
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