一輪の花を君に。
ーside中森ー



俺は、初めて見る美空の姿に少し戸惑いつつも安心感を覚えた。




押さえ込んできた感情を、少しは表に出すことができたと思う。






施設に預けられた時でさえ、美空は泣かなかったんだよな。






10年間も、よく頑張ったよな。






いや、施設にいる期間はそれだけであって、美空はもっと前から、感情を失っていたのかもしれない。






美空の温もりが、腕の中にある。





あれだけ、遠かった距離がようやく縮まった気がする。





震えている様子はまだあるけど、出会ったばかりの頃ほどではなくなった。





これからも、美空の不安や恐怖を取り除いて楽にしてあげたい。





「中森先生。」






「ん?」





「明日、目が腫れたら先生のせいですから。」






「はは。


それなら、俺が責任もってケアしないとな。」







「お願いします。」






「お任せ下さい。」






それから、しばらくした頃に美空の呼吸は段々と浅くなっていった。






「美空?


ゆっくり、深呼吸してみよう?」






「え?」






「少し、苦しいだろう?



ゆっくりでいいから、落ち着いて深呼吸してみよう。」






美空の深呼吸を、背中を擦りながら助ける。





やっぱり、深呼吸することでさえ辛そうだよな。






背中から伝わる、微かな震えと喘鳴。






本当は、発作が起きる前に吸入したいけど、今は気持ち的にもそれどころじゃないよな。






「先生?」





「どうした?」





「咳が出そうなんだけど…。」





「え?」




俺は少し驚いた。





自分の体調を初めて言ってくれたことに、成長を感じて感動しそうだったけど、今はこらえてから処置を始めた。





「ちょっと、胸の音だけ聞かせて。」






そうは言ったものの、聴診をする前に発作が起きてしまった。






「美空、大丈夫だからゆっくり吸入しよう。」






美空の口元に、吸入器を当て美空の背中を擦りながら、呼吸が苦しくないような体位に整えた。






「落ち着いた?」





発作は、30分続いたが美空は落ち着きを取り戻した。






「頭が、ぼーっとする。」





「さっきの発作と、泣いたから体温が上がったみたいだね。

発作も、落ち着いたから眠っても大丈夫だよ。傍についているから、何かあったらすぐに言って。」







「はい。」





そう言ってから、美空はすぐに眠りについた。





きっと、深い眠りなんだろうな。





美空の目が、貼れないように保冷剤をタオルに巻いてから、美空の目に当てた。






それにしても、また痩せたな。





ただでさえ、美空は1回りも小さいし平均体重より下回っていたのに、これ以上痩せてしまったら本当に危ないよな。






栄養状態も、注意して見ていないとな。





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