一輪の花を君に。
「中森先生?」





「ん?」





「病院、抜け出してすみませんでした。」






「ははは。」






「えっ?」






中森先生は、運転しながらずっと笑っている。







「どうして、そんなに笑うんですか?」





「いや。

ほら、七瀬先生から聞いたんだ。よく病院を抜け出していたって。でも、美空はよく海岸に逃げていたって聞いたから、最初は本当に焦ったけど、七瀬先生に連絡したらきっと海岸だろうって。


改まって謝るなんて、美空は初めてだよな。」









「そうですか。」






「でも、もう抜け出したりするなよ。



これでも、本当に心配したんだから。」







「それは、すみませんでした。」






「謝らなくていいよ。」





それから、病院に戻り中森先生の診察を受けた。


「喘鳴が、少しあるから発作が起きるかもしれないけど、今は苦しくないか?」





「はい。」



「そっか。よかった。


じゃあ、病室に戻ろうか。」




中森先生に、車椅子でベッドまで乗せてきてもらってから、私は中森先生に支えられベッドへ横になった。







「なあ、美空?




どうして病室を抜け出したりしたんだ?」






「えっ?」






「たしかに、七瀬先生からは美空はよく病室を抜け出していたって聞いた。



それは、治療が嫌だったんだよな?



けど、海岸で美空を見た時それだけじゃないって気がしたんだ。」





中森先生には、なんでもお見通しなんだね。





隠してた気持ちを、話してもいいかな。






私は、ゆっくり目を閉じてから深呼吸をして先生に話す決意を決めた。







「入院は、苦しいだけじゃないですか…。」





「苦しい?」




「はい。



点滴で繋がれて、吸入が苦しくて…。



病院にいると、心まで弱くなりそうで。」







「ほら。俯くな。



美空?


俺と、約束しないか?」






「約束?」






「不安な時や、苦しい時はすぐにナースコールを押して。



すぐに、美空の元へ行くから。」






「そんな…。我儘なことはできません。」






「我儘じゃない。そうしてほしいんだ。




俺は、美空のそばで支えていきたい。



美空のこと、守るって言っただろ?」







「先生…。」






「だから、何も怖がることなんてないよ。」






先生は、そう言うと私の前髪を整えるように撫でてくれた。
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