一輪の花を君に。
「俺は、美空が暗い道に迷わないように、光になりたいって思ってる。



たとえ、間違えそうになっても俺は何度でも美空を助けたいって思う。



そこに、他人みたいな壁があったら分かり合えるものも分かり合えないだろう?」







「だけど、私は何度も考えると思う。


中森先生に、素直に頼ったら取り返しのつかないことにならないのかなって。


でも、頭では先生は私を見捨てないことは分かってる。



そこに、迷いが生まれて分からなくなるのかもしれない。



私、ずっとそうやって迷いながら生きるのかな?

そんな人生、疲れそう。」






「迷いに迷って決めた決断に、間違えなんてないんだよ。



迷った決断だからこそ、喜びは大きいと思う。




それだけ、笑顔になれるんだよ。」







「そうかな。」






「そうだよ。




何の苦労もない人生なんて、楽しくないと思うよ。



辛いことがあって、逃げなかったからこそ、そこには大きな幸せがあるんじゃないのかな。



いくら、俺が幸せにしてあげたいって思っていても、美空の幸せはまた別にあるのかもしれない。幸せの価値観なんて、その人その人で違うんだ。」







「人それぞれってことですよね。」






「それぞれだけど、人は幸せになれる権利を持っているんだ。



産まれたからには、幸せになれるように出来てるんだ。」







「先生、私ちょっと元気が出ました。」







「それはよかった。



もう、夜も遅いし喘鳴も落ち着いてきたみたいだから、眠った方がいいんだけど、眠れそうかな?」






「はい。」






「じゃあ、俺はそこにいるから何かあったらすぐに呼んで。」






中森先生は、そう言ってから椅子を並べて横になった。







「先生?」





「どうした?」





「ちゃんとしたお布団で眠った方がいいんじゃないですか?」






「俺は、美空のそばで眠りたいんだけど?」






「でも、他の患者さんに呼び出されたら…。」






「そんなこと、美空が心配しなくていいんだよ。」







「でも、まだ白衣だし夜勤ですよね?」






「ああ、これか。



これは、誰かさんが無理ばっかりするからそのままだったんだな。」







「すみません。」






「今は、美空の保護者として一緒にいさせてよ。」







「はい。」






私は、中森先生の温かい手の温もりに触れながら、深い眠りにつくことができた。
< 68 / 77 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop