柏木達也の憂い
あの男ともなんでもないことも分かったし、もっとこの子に近づきたい、純粋にそう思って自分から連絡先を渡す。
そして、つい唇を寄せていた。
だけど、それがゆりちゃんの唇に届くことはなくって、ちょっと冷たいゆりちゃんの掌に着地した。
おもしろい。
こんなに、笑ったのは久しぶり。
こんなに、ワクワクした気持ちになるのは本当に久しぶり。
渡そうとした名刺を引き取って、ほとんど人に教えることのないプライベート用の番号とSNSのIDを書きこむ。
気軽に連絡が欲しい、そんな気持ちを込めてゆりちゃんの手に握らせた。
今度こそ、連絡くれるかな。
彼女から俺に興味を持ってほしい、そんな思いを込めて自分から連絡先は聞かなかった。
ちっぽけな男のプライドなのかもしれない。
でも、ゆりちゃんみたいな子に求められたかったのだ、俺自身を。