メガネの王子様
第2章
もっと知りたいんです
文化祭の準備は順調に進み、色んなことがスムーズに決まっていった。
「じゃ、クッキーは女子全員で明日の放課後に家庭科室で作って下さい。男子はコーヒー、コーラ、オレンジジュースを手分けして買い出しに行きます。あと、今から演劇部に行って衣装を借りてきますので、戻ってきたら皆んなで衣装合わせをしましょう。」
桐生が要領よく話を進め、桐生、私、陽葵、健ちゃんとあと数人で演劇部の部室に向かう。
ウチの演劇部は地元ではけっこう有名で、卒業して有名な劇団に入る人がいるくらいなの。
だから、学校側も力を入れていて部費も他の部より多いからか、たくさんの衣装が揃っているらしい。
「ここにある衣装、どれでも持っていっていいわよ。
衣装に番号をふってあるから、持っていく番号をこの表に書き込んでね。
じゃ、先生、職員室に戻っておくから終わったら戸締り宜しくね。」
演劇部の顧問の先生が、衣装管理ノートと鍵を桐生に渡して部室を出て行く。
「じゃ、適当に選んで教室に戻りましょう。」
桐生は少しズレた眼鏡をカチャッと上げながら言った。
「きゃー、メイド服みっけ。チャイナもあるじゃんっ。」
早速、陽葵が楽しそうに衣装を探していく。
「男は何がいいんだ?」
健ちゃんは「うーん」と顎の下に手を当てながら考えている。
私もハンガーにかかっているたくさんの衣装を一枚ずつ確認していった。
あ…コレ、イケメンバージョンの桐生に似合いそう。
私が手にしたのは、パリッとした黒の燕尾服にグレーのベストと白い手袋。
コレを着た桐生に「お嬢様」とか言われたら世の中の女子は失神しちゃうね、きっと。
「何、ニヤニヤしてるんですか?」
私の耳元で、あの魅惑の低音ボイスで囁く桐生。
「ニヤニヤなんてしてないよっ///」
…本当に心臓に悪いんですけど。
桐生への想いに気付いてからというもの、まともに顔も見れなくなってしまった。
モサ眼鏡の時も、イケメンバージョンの時も、近くにいると思うだけで、ドキドキと私の心臓は落ち着かなくなる。
「桐生の衣装はコレにしなよっ。」
パッと手に取って桐生の胸元に衣装を押し付けた。
押し付けた衣装はーーー
カボチャパンツに白タイツの王子様衣装。
「神崎さん、ちょっとお話があるので隣の部屋まで来ていただけますか?」
ニコッと笑った桐生。
眼鏡とモサッとした前髪で目が全く見えないけど……きっと目は笑ってない。
「え…、い、嫌です。」
「拒否権はありません。行きますよ。」
そう言われて、私は隣の部屋へズルズルと強制連行された。
みんな衣装を選ぶのに必死で、私が連れていかれてるのに気付いていない。
パタン…と静かに閉められたドア。
隣の部屋には大きな鏡やロッカーが並んでいて、どうやら更衣室として使われているみたいだった。
桐生は私を大きな鏡の前まで追い詰め、両手で私を囲うようにして閉じ込める。
「お前、本当にアレを俺に着せたいの?」
いつの間にか眼鏡を外してイケメンバージョンになっている桐生。
「に、似合うんじゃないかなぁ〜…ハハ…。」
まともに桐生の顔が見れない私は、顔を横に反らしながら返事をする。
「なんで、こっち見ねぇんだよ。」
桐生は私の顎に手を当て、無理矢理に正面を向かせた。
近すぎる桐生との距離に、私の心臓はこれでもかというくらいに暴れ出す。
「ち、近いよっ///離してっ。」
「ふ〜ん、そんな態度なんだ?」
ニヤリと片方の口角を上げて、いつもの意地悪な顔になる桐生。
ヤ、ヤバイ…かも?
そう思った時にはもう遅かった。
「…ん、はぁ、ん…んっ。」
私の唇は桐生によって塞がれ、口の中ではコロコロと弄ばれている。
桐生の濃厚なキスと、すぐ隣には皆んなが居て、いつ部屋に入ってくるか分からない状況に、私はドキドキ、ハラハラで目眩さえ覚える。
立って居られなくなりそうになったとき、私の唇は解放された。
「また、反抗的な態度をとったらお仕置きだから。」
桐生が私の唇を細くて長い指でそっとなぞりながら言う。
そして、眼鏡をかけてから
「少ししてから戻って来てください。顔がトマトみたいになってますよ。」
と言って何もなかったかのようにドアを開け部屋を出て行った。
ズルズルズル…と鏡を伝い、私は力無く床に座り込む。
「なんなのよ…一体…。」
どうして私に構うの?
なぜ、何度もキスをするの?
ーーー 私………
期待しちゃっていいの?ーーー