メガネの王子様
バカだったんです
「お前ら、何やってんの?」
逃げ込んだ空き教室で、桐生とキスをしているところを清宮先輩に見られてしまった。
桐生は慌てる事なく、胸のポケットにしまってあった眼鏡を取り出し掛ける。
…良かった、清宮先輩からは桐生の背中しか見えてない。
なんとか、眼鏡を掛けていない桐生を見られずに済んだ。
「清宮先輩…あの、これは…。」
「いいから、萌香ちゃん、ちょっと来て。」
清宮先輩が私の手首をぎゅっと掴み、強引に引っ張って教室を出て行こうとする。
「き、桐生っ。」
振り返ると桐生と目が合ったがすぐに逸らされて、私を引き止める気なんてないことを知る。
他の男の人に連れて行かれようとしているのに引き止めてくれないなんて…
…………そっか、
やっぱり私って……
からかわれてただけなんだーーーーー
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清宮先輩に引っ張られて連れて来られたのは屋上だった。
風が少し強く吹いていて、チャイナドレス姿の私は太ももが見えないようにスカートを押さえる。
その行動を見ていた清宮先輩は、着ていたパーカーを脱いで私の腰に巻いてくれた。
「…ありがとうございます。」
「凄い衣装だね。オレが同じクラスだったら絶対にそんな格好させないのに。…他の男に見られてたなんて思うとムカついて仕方ないよ。」
清宮先輩はそう言いながら、私の肩に両手を置いた。
「ねぇ…萌香ちゃん、さっきのヤツと付き合ってるの?」
切なそうな視線を私に向ける清宮先輩。
「……付き合ってないです。」
「ーーでも、あいつと……キス、してたよね?」
そう、桐生とは何度もキスをした。
でも……………
私達は付き合ってない。
桐生にからかわれてただけ。
あいつは私のことが好きでキスをしたんじゃない。
期待してしまってた私がバカなだけ……
「もう、しません。」
絶対に。
気持ちの無いキスなんていらない。
「…そっか。じゃ、オレはこれからも萌香ちゃんを落とせるように頑張ろ。」
ニコッと笑い、私の頭を優しくなでる清宮先輩。
その温かさに目頭が熱くなるのをグッと堪える。
「私、教室に戻らなきゃ。」
急いで屋上から出ようとすると、清宮先輩に腕を掴まれ引き止められた。
「待って、萌香ちゃん。」
私は振り返り清宮先輩を見上げる。
「明日の午後、体育館でバンド演奏するんだ。萌香ちゃんに見に来てほしい。」
清宮先輩が少し照れながら誘ってくれた。
なんでもいい。
桐生のことを考えないようにしたい。
「はい。」
そう返事をして私は屋上を後にした。