メガネの王子様
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教室へ帰ると心配そうな表情で陽葵が駆け寄ってくる。

「萌香っ、大丈夫?怪我はない?
私が宣伝に出てるとき、教室は大変だったんだねっ。」

あの金髪たちにからまれているとき、陽葵は宣伝のためメイドの衣装で看板を持って校内を回っていたから教室には居なかった。

「…うん、大丈夫。ありがとう。」

「萌香?本当に大丈夫?」

陽葵はいつも鋭くて、私の少しの変化にもすぐに気付いてしまう。

今すぐ、陽葵に話しを聞いて欲しい。

でも、今、言葉にすると涙が止まらなくなりそうだからーーー

「…ん。大丈夫。」

私は、なんとか笑顔で答えた。

「…そっか。」

陽葵もそれ以上何も聞かずに、笑顔で答えてくれる。

勘のいい陽葵は、私に何かあったことに気付いてるはず。

それでも何も言わずに退いてくれる陽葵の心遣いには感謝しかない。

「神崎っ、おかえり。あれ?桐生は?」

健ちゃんも私の姿を見て駆け寄ってきてくれた。

「…えっと、私だけ先に帰って来たんだ。桐生はまだ保健室じゃないかな?」

とりあえず適当に答えたが、実際、保健室には行ってないから桐生が今どこに居るかなんて分からない。

「なぁ、神崎。そのパーカー、誰の?」

…パーカー?

健ちゃんに指摘されて、清宮先輩のパーカーを腰に巻いていることを思い出した。

「えっと…、ゴメン。健ちゃんに借りたカーディガン、桐生に貸したままなんだ。」

「俺のカーディガンなんてどうでもいい。そのパーカーが誰の物なのかが知りたい。」

なに?なんだか健ちゃんが怒ってるみたいに見えるんだけど…

「健ちゃん、萌香が困ってるよ。」

陽葵が健ちゃんの腕を掴んで教室の外に連れて行くと、廊下に出る2人と入れ違いに桐生が教室へ戻って来た。

慌てて私が視線を逸らし紙コップなどを整理していると、桐生が静かに近づいて来て隣に立つ。

「コレ、ありがとうございました。」

健ちゃんのカーディガンを私に差し出した桐生。

私が桐生の気持ちに気付いてしまったからなのか、モサ眼鏡バージョンの桐生が敬語なのはいつものことなのに、今は余所余所しく聞こえてしまう。

チクっと心臓に針を刺されたみたいに痛い。

ーーー無理だ。

今、桐生と面と向かって話すなんてこと出来ない。

私は何も言わずに桐生の手からカーディガンを受け取り、廊下にいる健ちゃんのところへ走って行った。


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