メガネの王子様
*****


ガチャン…



重い扉を開けて私と陽葵は屋上へ出る。

予想通り、そこには誰も居なかった。

「ーーで、一体なにがあったの?」

陽葵は食べ物を広げてから地べたに座り、トントンッと床を軽く叩いて私を誘導する。

陽葵の隣に座った私は、ゆっくりと今まであった事を話した。

桐生に何度もキスされたこと、清宮先輩に告白されて今もアプローチされていること、午前中に空き教室であった出来事、清宮先輩に明日のバンド演奏に誘われたこと。

そしてーーー桐生のことが好きだと言うこと。

眼鏡のことだけは桐生との約束だから話さなかった。

「そっか…。そんなことがあったんだね。」

「んー」と陽葵は少し考えてから

「私はまだ清宮先輩のことを信用できないんだけど…

実は最近、清宮先輩が女の子との関係を清算していってるって噂を耳にしたんだ。

だから、萌香のことを真剣に好きなのかな?って思ったりもする。」

「清宮先輩の気持ちは嬉しいけど、私は……。」

「桐生のことが好きなんだよね?

でも、桐生は萌香のこと引き止めてくれなかったんでしょ?

それって、清宮先輩に萌香を取られても仕方ないって思ってる証拠だよ。

萌香に気持ちがあるんなら、引き止めるのが当然でしょ?」

「そうだよね…。」

陽葵の言っていることは全て正しい。

陽葵の言う通りで、きっと桐生はそう思ってたに違いない。

ヒドイ男だ…桐生は。

私に何度もキスをして、こんなに桐生のことを好きにさせておいて…スッと身を引いてしまうなんてさ。

私のこの気持ちはどうしたらいいのよ…

どんどん目頭が熱くなってきて、涙が溢れ出してしまった。

「ご、ごめん、萌香。きつく言い過ぎた。」

陽葵がぎゅっと私を抱きしめて頭を優しく撫でてくれる。

「ううん、陽葵の言うことは間違ってないから。

私は桐生にとって、オモチャみたいな存在だったんだよ。

私の反応が面白くて、からかって遊んでただけなんだよ…ヒック…」

私が泣いている間、陽葵は黙ってずっと私を抱きしめていてくれた。

「桐生のやつ、マジでムカつくっ。今から殴りにでも行ってやるか。」

陽葵が右手をぐっと握って空気を殴っている姿を見て、私は自然と涙が止まり笑いが込み上げてきた。

「あははっ、陽葵ってば凶暴〜。」

「何笑ってんの?私はマジだよ。」

口をへの字にしながら中指を立ててアピールする陽葵。

そのポーズはさすがに女の子としてはダメですよ、陽葵さん。

でも…

「へへ…ありがとう、陽葵。大好きだよ///」

「ばーか、私も大好きだっつーの///」

私…陽葵が居てくれて良かった。

本当にありがとう。


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