メガネの王子様
それだけでいいんです
「ちょっと待って!桐生っ!」
私は桐生に引っ張られて、体育館から1番近い図書室まで連れてこられた。
今は皆んな教室か体育館に集まっていて、ここには誰も居ない。
私の声でやっと止まってくれた桐生は、まだ手を繋いだまま私に背中を向けている。
「どういうつもりなのっ!構わないでって言ったよねっ!」
私は息を切らしながら叫んだ。
「…わからない。」
そう背中を向けたまま一言だけ呟いた桐生。
わからないって、どういうことよっ⁉︎
こんな派手に清宮先輩のこと置いて来ちゃったんだよ⁉︎
返事もちゃんとしてないのにっ!
「私、体育館に戻るから手を離して。」
「無理。」
「は?何言ってんの。離してよっ!」
「嫌なんだよっ!」
そう叫んだ桐生は私の手を強引に引き寄せ、力強く私を抱き締めた。
「離してっ!」
私は桐生の胸を力一杯に押し退けるが、硬く締められた桐生の腕はビクともしない。
本当…もう辞めてよ。
こんな事しないでっ。
まだ、桐生のこと諦められてないんだから…
またバカみたいに期待しちゃったら困るでしょ。
「お願い…離して。」
「ゴメン…離せない。アイツのところなんかに行かせたくない。」
桐生が私の耳元で弱々しく囁いた。
トクンッと私の胸は弾み出して、どんどん加速していく。
それってどういう事?
桐生は抱き締めていた腕を緩め、私の目をじっと見つめて
「正直…自分の気持ちがよく分からないんだ。神崎の事を好きなのかどうなのか…。
ただ、神崎に構うなと突き放されて無視されて…とても哀しい…寂しい…気持ちになった。
清宮ってヤツに神崎を取られるのが嫌だと思った。
気が付いたら…お前を奪い去ってて…
ただ、これだけは言える。」
桐生は私の頬を両手で包み込み、おでこをそっと重ね合わせ
「神崎は俺にとって特別な存在なんだ。」
とても切なそうな声で言った。