メガネの王子様
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私達は本棚で入り口から死角となる場所に、横並びで壁にもたれて座る。

「俺さ…。」

しばらく黙っていた桐生が、ポツリ、ポツリと話し出した。

「小学校の時に何回か誘拐されかけたんだ。

中学に入ってからは力が強くなって誘拐されそうになる事はなくなったけど、その代わりに電車やバスで痴漢に遭うようになった。

学校に行けば女が群がり、俺が誰かと喋ると次の日からその子はイジメられて。

全く知らない子達に毎日のように告白されて…

結局さ、この俺の容姿が悪いんだって思った。

皆んな俺の表面しか見てくれないんだよ。

だんだん、誰の事も信用できなくなっていった。

高校に入ると同時に髪をボサボサにして黒縁のデカイ眼鏡かけて、顔が見えないようにして…人ともできるだけ関わらないように生活してきた。」

桐生はフッと笑ってから

「なのにさ、居眠りしてる間に眼鏡外されて神崎にバレちゃったんだよな。

どうにかして口止めしないとって思ったら、気が付けば神崎の唇を塞いでた。」

「あのときはビックリしたし腹が立ったよ。」

私は冗談ぽく笑って答えた。

実はアレは私のファーストキスだったんだよね///

あんな形で奪われて腹が立ったけど…なぜかそこまで嫌じゃなかったんだ。

あの時から既に私は桐生のことを好きだったのかも知れない。

それにしてもーーー

本当の桐生を隠してるには何か理由があるとは思っていたけど、自分が想像しているよりはるかに重いものだった。

誘拐?痴漢?そんなことって日常的にあることじゃないよね?

私がもし、そんな経験をしてしまったら怖くて外を歩けなくなってしまう。

今みたいな普通の生活を送ることが出来なくなってしまう。

桐生は本当の自分を偽ることで自分自身を守ってきたんだね。

それって凄く疲れるし辛いことだと思う。

「桐生にはそんな過去があったんだね…。

実際にそんな目にあった事がないから全部は分かってあげられないけど、ずっと辛い思いをしてきたんだってことは伝わったよ。

これだけは信じて。

私は桐生のこと、見た目だけで絶対に判断しないよ。」

私がじっと桐生の目を見て真剣に伝えると

「知ってる。」

と桐生が穏やかに優しく笑った。



桐生にとって「特別な存在」

恋愛感情じゃなくても私はそれだけでいい。

私はじゅうぶん幸せだ……



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