メガネの王子様
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モサ眼鏡に戻った桐生と2-Aの教室に帰ると、私はたちまち皆んなに囲まれて身動きが取れなくなった。

一緒にいた桐生は弾き飛ばされて教室の隅っこに追いやられている。

「ねぇ、あのイケメンは誰?」

「萌香ちゃんってば、超絶イケメンの彼氏がいたのー?」

「清宮先輩のこと断っちゃうの?」

囲み取材のように質問攻めにあう私…。

「いや、ちょ、ちょっと待って。」

揉みくちゃにされそうになっている私の手を、誰かが外側から引き出してくれた。

そしてトンッとその人の胸の中に収まる。

「神崎が困ってるだろ。質問があるんなら1人ずつにしろっ。」

「…健ちゃん。」

私を助けてくれたのは健ちゃんだった。

「そうだよっ。萌香が困るような事しないでよね。」

今度は陽葵が私を抱き締めて、皆んなを睨みつける。

「陽葵ぃ…。」

私が陽葵にぎゅっと抱きつくと「ヨシヨシ」と頭を優しく撫でてくれた。

「じゃあ、私から質問しまぁす♡あのイケメンは誰ですか?
そういえば、ウチの制服を着てたけど、あんなイケメンいたっけ?」

ひとりの女の子が手を上げて質問をした。

「えっと…彼は…そ、の…。」

どうしようっ⁉︎

なんて答えたらいいんだろ⁉︎

彼氏じゃないしっ。

同じ学校だけど…

まさか、あれは眼鏡を外した桐生ですーーーなんて言えないしーっ!

「あの人って、神崎さんの彼氏ですよね?」

「えっ?桐生⁇」

私は目を何回もパチパチとしながら桐生を見上げる。

何言ってんの⁇

大丈夫なの⁇

そんな事言っちゃってーーっ⁉︎

「他校に彼氏がいるって、この前、教えてくれたじゃないですか。

目立つのが嫌だからウチの制服を着てもらって一緒に文化祭をまわるんだって。」

桐生がスラスラと嘘をつく。

この男はある意味すごい男だな…。

「でも、あの制服、どこから手に入れたんだ?」

健ちゃんが怪しそうな顔で桐生をじっと見て言った。

本当だよっ⁉︎

ウチは学年によってネクタイの色が違うんだよ?

ネクタイの色まで同じ制服をどこから借りたって言えばいいのっ⁉︎

同じ色のネクタイを借りようと思ったら、3年前の先輩に借りなきゃいけないんだよ?

卒業してから3年間もネクタイを保管してる人なんていないよーっ!

私は泣きそうになりながら桐生の返事をじっと待つ。

「あの制服は僕が1年の時に着ていたものです。成長期で小さくなってしまって、2年になってから新しく買い替えたんですよ。

ついでにネクタイも。

それを先日、神崎さんに頼まれてお貸ししたんです。」

私とは正反対の余裕な表情で答えた桐生。

すごい…どうやったら、こんなそれらしい理由が思いつくんだ?

はは…私には出来ない芸当だなぁ……。

「そうなのか?神崎?」

健ちゃんが、なぜか悲しそうな顔で私を見つめる。

「…うん。彼が着てたのは桐生の制服だよ。」

「…そっか、神崎って他校に彼氏がいたんだな…。
ハハ……全く気づかなかったよ。」

元気なく笑う健ちゃん。

どうしてそんな顔で笑うの?

私、何か健ちゃんを傷つけるようなこと言っちゃったのかな?

「はーいっっ。これでお終いっ!
皆んな、よくわかったでしょ。
じゃあ、サッサと後片付けをして打ち上げでもしようよ。」

陽葵がパンパンと手を叩いて皆んなを解散させてくれた。

納得してくれたのか、皆んな黙って後片付けをテキパキとし始める。

「ありがとう…陽葵。」

「いーよ。それにしても、嘘つくのが上手いな桐生は。」

私にだけ聞こえるように陽葵が言った。

え⁈

私は目を見開いたまま陽葵を凝視する。

「プッ、なんて顔してるの?私が気付いてないとでも思ってた?」

あはは…と笑いながら私の頭をポンポンとする陽葵。

「あのイケメンは桐生なんでしょ?」

「陽葵…いつから気付いてたの?」

「桐生がイケメンってことは、ずっと前から…たぶん、萌香が気付く前から知ってたよ。」

陽葵はピースサインをしながら言った。

「そ、そうなんだ。」

さすが、陽葵。

相変わらず鋭い…。

この後、食べ物を買い出しに行き、教室で皆んな仲良く打ち上げをして今年の文化祭が終わった。


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