メガネの王子様
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放課後…




「ごめん、萌香。この埋め合わせは絶対するからっ。」

そう言って陽葵は両手を顔の前で合わせてから、慌てて教室を出て行った。

「あいつ、何、慌ててんの?」

健ちゃんがスポーツバックを肩に掛けて、私の席にやって来る。

「なんかね、彼氏が熱出して会社を早退したんだって。それで看病しに行くみたい。」

「そっか、水樹さん独り暮らしだからな…。」

独り暮らしの彼のために、お粥を作ったり、濡らしたタオルを頻繁に変えてあげたりするんだろうな陽葵は…。

「陽葵みたいな彼女がいたら幸せだろうなぁ。」

「ぷっ、なに?神崎は彼女が欲しいわけ?」

「ち、違うよっ。陽葵みたいな魅力的な女の子になりたいってことだよ。」

「…じゅぅ…………、だよ。」

健ちゃんがボソッと何かを言った。

「え?なに?声が小さくて聞こえないよ。」

「あーっ…だからっ…神崎は今のままで、じゅうぶん魅力的だよっ///」

健ちゃんの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。

「け、健ちゃんっ。いつの間にそんなお世辞を言えるようになったのっ?成長したねぇ。」

お世辞とか女の子を褒めるのがとても苦手な健ちゃんが、こんな事を言えるようになってるだなんてっ。

陽葵にLIMEしとかなきゃっ。

「…神崎ってほんとバカ///」

「なんでよ、褒めてるのにさ。」

「それより…どうなんだよ。」

「何が?」

「その…他校の彼氏とは、うまくいってんのかよ?」

えっ⁉︎予想外の質問にめちゃ焦るんだけどっ。

まさか健ちゃんにそんな質問されるなんて思ってなかったしーっ⁉︎

「ま、まぁ…。」

本当に桐生と付き合ってるわけじゃないから、なんて答えていいのか分からないよっ。

「神崎の彼氏って………き…」

途中で話すのをやめてしまった健ちゃんは、黙って私の顔をじっと見つめていた。

「なに?どうしたの?」

私は首を傾げながら健ちゃんを見上げる。

「ん〜…、やっぱ何でもない。俺、そろそろ部活に行ってくるわ。」

そう言って健ちゃんは、私の頭をポンポンとしてから教室を出て行った。

「き」って健ちゃんはあの後、何を言おうとしたんだろう?

ま……いっか。

私はスクバを持ち教室を出て昇降口に向う。

あ〜あ、今日は陽葵とクレープを食べに行こうって言ってたのになぁ。

彼氏の体調が悪いから仕方ないけど、私のお腹は超クレープ腹だよぉ。

そう思いながら靴箱からローファーを取り出し履き替える。

「….神崎さん。」

名前を呼ばれて振り返ると、そこにはモサ眼鏡の桐生がいた。

あれ…桐生?

先に教室を出たはずだよね?

まだ帰ってなかったの?

「…は、い?」

「一緒に帰りませんか?」

桐生は今朝と同様、とびっきり爽やかな笑顔で言った。

「ちょっ、ちょっと桐生っ///そんな無防備に笑ったらダメだよっ。バレちゃうっっ。」

イケメンオーラがダダ漏れしちゃってるよっ!

「…っあ、ヤベッ。」

桐生は慌てて通常運転の無表情な顔に戻す。

「今朝から気を抜き過ぎだよっ。いつバレるか私がドキドキしちゃうじゃんっ。」

文化祭以降、モサ眼鏡とイケメンとの区別が曖昧になってきてるよっ。

「わり、無意識だった。」

ほら、今だってモサ眼鏡の桐生なのに敬語じゃないじゃんっ。

「マジで気をつけないとバレちゃうよっ。」

「了解、気を付けます。それで?僕と一緒に帰りますか?」

「……う、うん///」

な、なんか、今日の桐生はいつもと違うんですけどっ///


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