メガネの王子様

欲張りなんです




学校を出て15分くらい歩くと駅に着く。

駅周辺には大きな商業施設があって、いつも学校帰りに陽葵と寄り道をしてから家に帰えるんだ。

ーーーで今日はクレープの予定だったんだけど……

なぜか今、私の隣には桐生がいる。

「神崎、腹へってねぇ?」

桐生が少し屈み私の顔を覗き込みながら言った。

「ちょっと、また敬語じゃなくなってるよ?」

「あー…、もうお前の前だけは素でいいだろ?」

「ま、まぁ、いいけど///」

私の前だけって…

めちゃ嬉しいんですけどっ///

「で?腹へってんの?」

「えっ///あ、うん。ちょっと減ったかも?」

モサッとした前髪と黒縁眼鏡の下から覗く桐生の綺麗な瞳にドキッとなる。

「じゃあ、ここで少し待ってろ。」

そう言った桐生は、私をベンチに座らせてから走ってどこかへ行ってしまった。

桐生の姿が見えなくなってから、私は足をプラプラとして遊ばせる。

ダメだっ///

嬉しい気持ちが隠しきれないっ。

だって、学校帰りに桐生と一緒にいるんだよ?

しかも「お前の前だけ素でいいだろ?」だってーーーっ///

普通にテンション上がっちゃうよねーっ///

私がひとりベンチに座り、ニコニコとご機嫌で桐生の帰りを待っていると

「君、ひとりぃ?」

突然、知らない男の人に声を掛けられた。

私は座ったまま前に立っている男の人を見上げる。

「うわっ!めちゃ可愛いじゃんっ///
なぁ、今からオレとどっか遊びに行かない?」

ナンパ?正直、ウザい。

「行きません。」

真顔で即答してやる。

早くどっか行ってよっ。

桐生が帰って来ちゃうじゃんっ。

「………あれ?お前、チャイナのねーちゃんじゃね?」

ーーーーーえ?

うそ………この人、文化祭の時のチャラパーマじゃんっ⁉︎

桐生のこと殴った奴だっ‼︎

「やっぱ、そうじゃんっ。スゲー、これって運命じゃね?
っつーことで、遊びに行こうぜーっ。」

チャラパーマは座っている私の腕を掴み、強引に引き上げた。

「ちょっとっ!離してよっ!行かないってばっっ‼︎」

思いっきり抵抗するが、私の意思とは反対にズルズルと体が引き寄せられていく。

これ、マジでやばいっ!

だって、すぐそこに車がチカチカとハザードたきながら待ってるんだもんっ!

もしかして、拉致られんじゃないのっ⁉︎

怖いっ‼︎

桐生っ!助けてっっ‼︎



「おいっ!何してんだよっ‼︎」

桐生が両手に持っている物を迷いなく投げ捨て、チャラパーマに掴まれている私の腕を解いてくれた。

「あ?何、お前?男には用がないんだよっ!どっか行けやっ!」

チャラパーマが突然キレて、大声で叫びだした。

桐生は私を自分の後ろにスッと移動させ、

「どっか行くのはお前。早く俺らの前から消えろよ。」

チャラパーマとは正反対の低く落ち着いた声で対応する桐生。

その態度と声が逆に相手に恐怖感を与える。

「ダッ、ダッセー眼鏡のくせにっカッコつけてんじゃねーよっ!」

チャラパーマは冷静な桐生に一瞬怯んだが、勢いよく殴りかかってきた。

私は怖くて声を出す事もできず、顔を手で覆い両目を瞑った。

しばらくの沈黙が流れたあと「いてぇ!」という声が聞こえてきたので、私は恐る恐る目を開けてみる。

するとそこには、チャラパーマが桐生に腕を締め上げられている姿があった。

「離せよっ‼︎このダサ眼鏡ヤローッ‼︎」

「離して欲しかったら、今すぐ立ち去れ。
そして今後一切、俺達の前に姿を見せるな。」

「ケッ、なんでお前の言うことなんか聞かなきゃならねーんだよっ!」

桐生は押さえているチャラパーマの腕を再度締め上げる。

「いってーっ‼︎わかった、わかったよっ!わかったから、腕を離してくれっ!」

桐生が腕を離すと、チャラパーマは脱兎のごとくチカチカとハザードをたいている車に乗り込み逃げて行った。

「神崎、大丈夫?」

桐生が心配そうな顔で振り返り、私の肩に手を置く。

「……う、ん。あんなの、どって事ないよ。」

私は必死に強がって見せる。

自分の弱さを見せることに慣れていないし、何より、桐生に心配かけたくないから…

「…バカだな、お前。」

そう言った後、桐生は壊れ物を扱うように私を抱き寄せた。

「肩が震えてる…怖かったんだろ?
強がんなよ、怖くて当たり前なんだから。
俺には甘えていいんだよ。
いや…
お前には甘えて欲しい…」

優しい桐生の声で一気に涙腺が崩壊する。

「うっ…本当はすごく怖かった…ヒック…
だって、チャラパーマの奴っ、すごい力なんだもんっ。
ヒック…私の力じゃどうにもならなくて…。」

私が桐生の背中に手を回すと、桐生は私の背中をそっと摩ってくれた。

その温かな大きな手が私に安心感を与えてくれる。

好きという気持ちが胸いっぱいに広がって、私の中でどんどん桐生の存在が大きくなっていくのがわかる。

"恋愛感情がなくても特別な存在"

それだけで幸せだと思っていたのに、桐生の側にいると私は欲張りになっていく。



ーーー 桐生と両想いになりたい ーーー




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