メガネの王子様
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2日目、私達は旭山動物園にきていた。

今日こそは、桐生に告白するんだっ!

昨日、あれから部屋に戻ったら、陽葵達はすでに帰ってきていて、嵐のような質問攻めにあった。

「明日は絶対に気持ちを伝えるんだよ。」

2人に背中を押してもらい、今日の私は気合いが入っている。

気合いは入ってるんだけどーーー

この、状態はなに?

目の前には、ゴマアザラシが上下に筒型の水槽の中を泳いでいる。

それは、いいの。

ゴマアザラシ、見たかったから。

でも…人の波に流されて勢いがついたとはいえ、この状態は心臓に悪いでしょ?

だって、私の顔の両サイドに大きな手がつかれいて、昨日、バスの中で薫った香りがすぐ後ろにあるんだよ?

つまり、桐生に後ろから壁ドンされてます///

「すみません、大丈夫ですか?」

耳元でモサ眼鏡の桐生が囁く。

「だ、大丈夫///」

全然っ、大丈夫じゃなーーーいっ!

私の心臓、ドキドキして大変な事になってるよっ///

しかも、耳元でそんな魅惑的な低音ボイスで囁かないでっ///

「クク…耳が赤いよ、可愛い。」

ボソッとまた私の耳元で、意地悪そうな笑いを含みながら囁いた桐生。

私は赤くなった耳を髪で隠そうと下を向いた。

「…それ、逆効果だから。」

今度はそう甘い声で囁くと…………

髪の間から露わになった私のうなじに、そっと優しく唇を当てた。

ドクンッ…と心臓が跳ねる。

私…もう、この状態に耐えられませんっ///

しばらくして、筒型の水槽に当てていた桐生の両手が視界から消えた。

どうやら皆んな、このブースに飽きて次のブースへ移動し始めたみたいだ。

私は胸に手を当て、ボーとしながら人の波に流されて歩く。

また、うなじに…キスされた///

…最近の桐生にはドキドキさせられっぱなしだ///

なんか、今までのドキドキとは少し違う様な…………?

ーーーそういえば、桐生の秘密を知ってすぐの頃は、からかわれている様なキスばかりだった。

でも…………

「特別な存在」だと言われてからは、そういったキスは全くされなくなった。

キスをされそうだと思ったことは何度かあったけど…

唇に全くキスをしてくれない。

唇に触れてくれないのは寂しい気持ちもあるけど…

前より今の方がドキドキすると言うか…

上手く説明出来ないけど、何かが確実に前とは違うんだよね。

「萌香、どうしたの?」

ボーとしている私を見て、不思議に思った陽葵が声を掛けてきた。

陽葵の隣にいる健ちゃんは心配そうな顔をしている。

「ううん、何でもないよ。あれ?優花ちゃん達は?」

近くに斎藤くんと優花ちゃんの姿がなくて、私がキョロキョロしていると

「野暮なことは聞かないの。」

と言って、可愛くウィンクする陽葵。

その時、私の視界に斎藤くんと優花ちゃんが仲良く手を繋いで歩いている姿が映った。

あぁ、そっか。

2人っきりでラブラブデートしてるわけね。

…いいな。

私も桐生と手を繋いでデートしたいな///

なんて思いながら次のブースに入ると、ドドッと人が押し寄せてきて、また人波に流され、陽葵達とはぐれてしまった。

「クク…何やってんの?」

桐生が意地悪に笑いながら、流されている私の腕をぐっと引き寄せてくれる。

「あ、ありがとう///」

「神崎って意外と鈍臭いのな。」

「ふ、普段はこんな事ないからっ///」

「はい、はい。」

微笑みながら桐生は私の頭を優しくポンポンとした。

きゃーっ///

もうっ、勘弁して下さいっ。

これ以上、好きにさせないでよっ。

私はドキドキしているのを桐生に悟られないように目を逸らした。

「そろそろですね。」

桐生が腕時計で時間を確認して言ったと思ったら、「行きましょう」と私の手を取って人混みをすり抜けていく。

「き、桐生っ/// 手、離して。」

皆んなに手を繋いでる事がバレちゃうよっ。

「人混みだから大丈夫、誰も見てませんよ。」

確かに周りを見てみると、皆んなアザラシや魚に意外と食い付いている。

「どこに行くの?」

「内緒です。」

それだけ言って、スイスイと人混みを避け進んでいく。

アザラシ館を出て、連れて来られたのは…

「ペンギン館?中に入らないの?」

桐生は建物内に入らず外で何かを待っているみたい。

そういえば、ここにも人がたくさん集まってるな?

今から何かあるのかな?

なんて思っていたら

「きゃーっ。可愛いーっ///」

思わず声に出してキャピキャピと喜んでしまった。

だって、仕方ないよっ。

可愛いペンギンがお散歩してるんだよっ///

「神崎さんが好きそうだなと思ったので。」

私が喜ぶと思って、ここに連れてきてくれたんだ///

嬉しいっ‼︎

「ありがとうっ、桐生っ。」

私は振り返り、思いっきり笑顔でお礼を言った。

「ーーーっ///⁉︎」

「…桐生?」

なぜか片手で口を覆い静止してしまっている桐生。

「どうしたの?桐生?」

不思議に思い私は下から桐生の顔を覗き込んだ。

すると突然ーーー

桐生の腕が私を力強く抱きしめ、耳元に唇が触れる。



「俺、神崎のこと………」




桐生の切なそうな声が聞こえた瞬間、




「萌香ちゃんっ。」

とクラスメイトの女の子に声を掛けられた。

桐生はハッとした様子で、一気に私との距離を取った。

え?さっきのは何⁉︎

桐生が言いかけた言葉と、抱きしめられていたところを見られたかも知れないという気まずさに、私の頭の中はパニックになっている。

「萌香ちゃんもペンギンのお散歩見に来てたんだね。」

普通のテンションで話し掛けてきたクラスメイト。

どうやら、さっきのは見られていなかったらしい。

「あれ?桐生くんも一緒?」

側にいた桐生にようやく気づいたクラスメイトは、意外そうな目でこっちを見ている。

「あ…うん、陽葵達とはぐれちゃって。」

私は動揺しているのを気付かれないように、出来るだけ普段通りに振る舞った。

「あの、僕、みんなを探しに行って来ます。」

そう言って桐生はすぐにこの場を立ち去った。


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