メガネの王子様
*****



「もぉ、桐生ってば何処まで探しに行ったのよ。」

私は人混みから外れた所でキョロキョロと桐生の姿を探す。

それにしても、さっきのは一体なんだったんだろう?

いきなり抱きしめられて……

耳元でーーー




「俺、神崎のこと……」




桐生の切なそうな声が頭から離れない。

ねぇ、桐生…

あの時、何を言おうとしたの?

「神崎。」

名前を呼ばれ桐生かと思い振り返ったが、桐生の姿は無く、同じ学校の知らない少しチャラめな男が立っていた。

「…は、い?」

とりあえず名前を呼ばれたので返事をする。

「ちょっと、いい?」

「なに?」

男は周りに人が居ないのを確認してから、いきなり壁ドンしてきた。

今まで知らなかったよっ。

好きでもないヤツに壁ドンされるって不愉快でしかないんだねっ。

桐生の時とは違って、全く違う意味での動悸がするんだけどっ。

「ちょっと!何⁉︎離れてよっ!」

「照れちゃって可愛い。なぁ?オレと付き合えよ。」

「はぁ?」

突然、何言ってんの?コイツ?

付き合って?じゃなくて、付き合えよって?

何様なのよっ、失礼なヤツだな。

「絶対、嫌です。」

私は男の腕の下から抜け出した。

「ちょっと待てよっ。」と男は私の腕を掴んで引き止め離さない。

「離してよっ‼︎」

「なんで、オレじゃダメなんだよっ!」

この手の男は、しっかりと心を折っておかないと後が怖い。

前に同じようなタイプの男に告白された時、「他に好きな人がいる」と断ったら、四六時中、監視されて大変な目にあった。

だからこっちが悪者になって心を鬼にしないと。

私は思いっきり男の手を振り払い、冷めた眼差しで見上げる。

「私、見た目重視なんだよね。
つまり、イケメンじゃないと付き合わないってこと。
悪いけど、アンタじゃ役不足なんだよね。」

何度言っても心が痛い。

本当はこんな事、思ってもないし言いたくもないのに…。

私は冷たい表情を保ったまま立ち去ると、後ろから「お前なんかこっちから願い下げだーっ!このブスっ‼︎」と男が叫んでいる。

前の人も同じ様な事、言ってたな…。

私はズキズキと痛む胸を両手で抑えながら下を向いて歩き続ける。

トンッ……

下を向いて歩いていたので誰かとぶつかってしまった。

「すみません」と謝り、私はその人を見上げる。

「………桐生。」

ぶつかったのは探していた桐生だった。

桐生の顔を見ると、なんだかホッとして目頭が熱くなりそうになる。

でも、安心したのは束の間だった。




「あれがお前の本性かよ。」





桐生の凍りつきそうな冷たい視線と地を這うような低い声…

あまりの怖さにゾクッと寒気がして身体が震え出す。

さっきの見られてたんだーーー。

早く弁解しないとっ。

「ち、違うのっ!桐生っ、私の話を聞いて!」

なんとか震える手にグッと力を入れて言葉にする。

「…ちゃんと聞いてましたよ、一部始終ね。
神崎さんの本性を知れて良かったです。」

ニコッと笑顔で答えたあと私の耳元に顔を近づけてーーー




「二度と俺に関わるな。」






そう言って桐生は私に背中を向け、遠くへ行ってしまった。



< 49 / 78 >

この作品をシェア

pagetop