メガネの王子様
男の人だったんです
修学旅行から帰ってきて数日が経ち、早くも12月になりコートやマフラーが手放せなくなっていた。
「あーあ、もうすぐ期末テストかぁ。」
陽葵が私の前の席に座り、「んー」と両手を上げて背伸びをしながら言った。
「…そうだね。」
笑顔で答えた私の頬を陽葵がぎゅーっとつねる。
「な、何するの⁉︎陽葵。」
私は少しヒリヒリする頬を摩りながら陽葵に視線を向けた。
「いつまでそんな作り笑いしてるつもり?
あんな奴、もう気にすることなんて無いよ。
早く前の元気な萌香に戻ってよ…。」
眉を下げションボリとした顔をする陽葵。
「…ん、ごめん。」
私はうなだれている陽葵の頭に、そっと手を乗せポンポンとした。
「私、本気で言ってるんだからね。最近、萌香の顔色が悪いから心配してるんだよっ。」
「ん、わかってる。ありがとう、陽葵。」
そう…修学旅行からずっと眠れなくて食欲もない私。
体重もかなり減ってしまった。
ダイエットしてる時は全然痩せないのにね。
「なに暗い顔してんだよ、2人とも。」
健ちゃんがやって来て、突然、私と陽葵の頭をワシャワシャとしてきた。
「もぉ、健ちゃん何するのよー。」
陽葵が乱れた髪を手櫛でササッと直しながら言う。
「それよりさぁ、俺、今日からテストが終わるまで部活休みなんだよな。皆んなでどっか行かない?」
部活が休みでご機嫌の健ちゃんはニコニコと遊びの誘いをしてきた。
「健ちゃん。」
陽葵が名前だけ呼んで健ちゃんの顔をじっと見上げる。
「な、なんだよ?」
「健ちゃんさぁ、中間テストがボロボロでかなりヤバイ点取ってたよね?そんな健ちゃんが遊んでる暇なんてあると思うの?」
キッと陽葵に睨まれて「う"」と言葉にならない音を出す健ちゃん。
派手めな陽葵だけど成績はいつも上位をキープしている。
健ちゃんのお母さんにも厳しく言ってやってと言われているらしく、健ちゃんの成績には敏感な陽葵。
「あ"ーっ、わかった、わかった。テスト勉強するよっ。その代わり陽葵、お前が責任持って俺にちゃんと教えろよ。」
「それは、無理だ。」
「は?何でだよ。」
「私、彼氏の家で勉強しながら夕食作って待ってるって約束してるから。」
「きゃ///」と嬉しそうに言いながら、健ちゃんの背中をバシバシと叩いている。
「痛ぇよ。んじゃ、どうするんだよ。俺、ひとりでなんて勉強できないぜ?」
「うん、わかってる。健ちゃんおバカだからひとりで勉強したって問題が解けなくて寝ちゃうだけだもんね。だ、か、ら……。」
陽葵は私の後ろに移動してきて、ポンッと私の両肩に手を付き、
「健ちゃんを教える先生は、萌香にお願いしたいと思います♡」
「「えーーーーーーーっ⁉︎」」
私と健ちゃんの驚きの声が綺麗に重なった。
「いや、私、陽葵の代わりなんて出来ないよ。そこまで頭良くないし。」
私は顔の前でブンブンと手を振って「無理だ」とアピールをする。
「大丈夫。萌香だって私とそんなに成績変わらないじゃん。」
「お願い」と陽葵は可愛く手を合わせる。
「いや、でも…」と困っていると、
「俺っ、神崎に教えてもらいたいっ///」
健ちゃんに懇願され私は断り切れず、健ちゃんと一緒にテスト勉強をする事になった。