メガネの王子様
*****



「健ちゃん、そこ間違ってるよ。」

誰も居なくなった放課後の教室で、私と健ちゃんは残ってテスト勉強をしていた。

「んー…、俺、数学って1番苦手なんだよな。」

健ちゃんはツンツン頭をポリポリと掻き、少し恥ずかしそうにしている。

ふふ…健ちゃんのこういうところ、ちょっと可愛いな。

「こんなの公式を覚えちゃえば簡単だよ。例えばこの問題だったら……くしゅんっ。」

人気が無くなった教室は寒くて、くしゃみが出てしまった。

「やっぱ、この時期、放課後の教室は寒いよな?場所変える?」

「…うん、そうだね。風邪ひいても困るし。
でも、どこで勉強する?」

「うーん」と健ちゃんは胸の前で腕を組み、目を閉じて考え始めた。

しばらくして

「俺ん家はっ?」

パッと目を開けて勢いよく言った健ちゃん。

「あ、いいね。健ちゃんの家だったら自転車ですぐだし。」

うん、うん、家の方が暖かいし、集中も出来るよね?

「あっ、いや、冗談のつもりだったんだけど///」

「へ?なんで?いいじゃん、健ちゃんの家で。」

健ちゃんは下を向いて口元を手で隠し、少し頬を染め上目遣いで私を見た。

「神崎…俺が男だって分かってる///?」

「うん、分かってるよ。健ちゃんを女だって思ったことは一度もないよ?」

健ちゃんの言っている事の意味がよく分からないなぁ?

お世辞でも健ちゃんは可愛い顔だとは言えない。

体も筋肉質でガッチリとしてるし、どちらかといえば、わんぱくな男の子って感じだもんね。

そんな健ちゃんを女だとは普通誰も思わないと思うんだけど?

「そういう意味じゃないんだけどな…。
神崎って危機感ゼロっつーか、無自覚というか。
いや、俺が男として見られてないのが問題なのか…。」

「はぁぁぁ…」と健ちゃんが肩を落とし、大きな溜息をつきながら言った。

「だから、男にしか見えないって。」

私の言葉に健ちゃんが更に大きな溜息をついたと思ったら、突然、私の頬に手をそっと当てて

「俺、神崎に男として見てもらえるように頑張るよ。」

そう言った健ちゃんの熱い眼差しにドキッとなる。




ガラッ…



突然、教室のドアが開き誰かが入ってきた。

私はその人の顔を見てすぐに健ちゃんの手を
掴み頬から離す。

健ちゃんは一瞬眉をひそめたが、笑顔でその人に話し掛けた。

「桐生。何か忘れ物?」

ドアを開けて入って来たのは桐生だった。

「…はい。」

ボソッと返事をしてから、1番前にある自分の机の中からスマホを取り出しコートのポケットに入れる。

一瞬こっちを見たような気がするけど、モサモサの前髪と眼鏡でよく分からない。

久しぶりに聞いた桐生の声…。

一言だけなのに、まだこんなにもドキドキとしてしまう。

私は桐生の姿が見えなくなるまで、ずっと目で追っていた。




「…渡さない。」




ボソッと健ちゃんが言った言葉を、私は桐生の方ばかりに気を取られていて全く気付いていなかった。


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