メガネの王子様
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お昼休みの教室。

私と陽葵は冬でもポカポカと陽の光で暖かい窓際を陣取り、机を2つくっつけてお昼ご飯を食べていた。

「健ちゃんとの勉強会は進んでる?」

陽葵が卵焼きをモグモグと食べながら言った。

「まぁまぁかな?あ、そうそう、昨日は教室で居残って勉強してたんどけど寒いねってことになって、今日は健ちゃんの家で勉強する事になったんだ。」

私はコンビニで買って来たカップスープとサラダを袋から出し、手を合わせながら返事をする。

「えっ⁉︎健ちゃんの家で勉強会するの?」

陽葵は持っていた箸を落としそうになりながら私の顔を見た。

「うん。」

なに?そんなに驚くような事なの?

友達の家で勉強なんて普通の事だよね?

「そっか、そっか。健ちゃんも、この状況で頑張る事にしたんだね。」

陽葵はお箸を咥えながら「うん、うん」と頷き、何かに納得しているようだった。

「最近、陽葵も健ちゃんも意味不明な事ばかり言ってるよね?」

私だけ仲間外れにされているみたいで面白くなく、私は頬をぷぅと膨らませる。

「ほんと、萌香は見た目とのギャップがあるね。
見た目は派手な感じなのに、鈍いというか男慣れしてないというか…純粋。
このギャップに健ちゃんはやられちゃってるんだよねー。」

ギャップ?鈍い?男慣れしてない?

「なんか全部、悪口に聞こえるんですけど…。 」

「あはは。違う、違う。褒めてんのよ。 」

陽葵は私の頭を撫でながら楽しそうに笑っている。

全然、褒められてる気分になれないのは私だけ?なんて思っていたら、陽葵は私の頭の上に乗せた手を机の上に戻し、私の目をじっと見てきた。

「なに?どうしたの、陽葵。」

「あのさ…、健ちゃん、お勧めだよ?」

「え?」

お勧めって何?また意味が分からないんだけど?

「桐生とは、あれから喋ってないんだよね?誤解も解かせてくれないんでしょ?」

「…う、ん。」

喋ってないどころか目も合わせてくれない。

昨日、久しぶりに声を聞いたくらい桐生と私の間は距離が出来てしまってる。

「だったらさ、もう、あんなヤツ忘れちゃえば?健ちゃんだったら絶対に萌香のこと大切にしてくれるよっ。」

ぎゅっと私の手を握って訴えるかのように言ってくる陽葵。

「…陽葵?」

「…あ、ゴメン。」

陽葵は握っていた手をそっと離した。

「急に変なこと言ってゴメンね。気にしないで。」

ペロッと舌を出して笑った陽葵。

「……うん?」

一体、何だったんだろう?

この時はまだ、陽葵の言っている意味が分からなかったんだ。


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