メガネの王子様
*****
シャー、シャー、と健ちゃんが元気よくペダルを漕ぐ音がする。
落ちないように健ちゃんのお腹辺りに回している私の手には手袋がはめられていた。
自転車に乗る時に健ちゃんが「寒いから」と言って自分の手袋を貸してくれたんだ。
本当、健ちゃんってば優しいな。
「もうすぐ着くから寒くても我慢して。」
健ちゃんが少し後ろを見て言った。
「私は大丈夫だよ。健ちゃんの背中が暖かいから、全然寒くないよ。」
冷たくなっている頬を健ちゃんの背中に当てて温めてみる。
「なっ⁉︎ か、神崎っ、それっ反則だからっ///」
反則??
あっ、そうか。
私だけ温まるのも悪いよね?
「はーい」と返事をして健ちゃんの背中から頬を離した。
「お前っ、マジでタチが悪い///」
「えー、頬っぺた温めたくらいで、そこまで言わなくてもいいじゃん。」
「はぁぁぁ…。そういうことじゃないんだよなぁ。俺、マジで頑張らないとっ。
ここまで男として見られてないとは思ってなかった。」
自転車を漕ぎながら大きな溜息をついた健ちゃん。
「だから昨日から言ってるけど、健ちゃんはどう見ても男の子だよ。女の子になんて見えないよ。」
「マジ、鈍感っ。」
と言いながらペダルを漕ぐスピードをあげた健ちゃん。
「なんで?私のどこが鈍感なのよっ。」
私が発した言葉は風の音でかき消され、健ちゃんには届かなかったみたいだ。
ーーーーーーーー
ーーーーー
「お邪魔しまーす。」
私は靴を脱いで健ちゃんが出してくれたスリッパを履いた。
初めて来た健ちゃんの家は古風な感じの造りで、なんだかおばあちゃんの家に来たみたいで落ち着く。
「こっち。」
健ちゃんに言われて案内されたのはダイニングだった。
「ここに座って」と言って椅子を引いてくれた健ちゃん。
言われるがまま私は指定された椅子に座った。
「え?ここで勉強するの?私はてっきり健ちゃんの部屋でするんだと思ってた。」
「俺も初めはそう思ってたんだけど、今日は親が居ないし、部屋なんて個室に入ったら…俺、自信ない///」
健ちゃんは口元に手を当て真っ赤な顔をしている。
「へ?なんの自信?」
私が言っている意味が分からず首を傾げると「鈍感」とまた言われてしまった。
健ちゃんは食器棚からコップを2つ出し、テーブルに置いてあったペットボトルのお茶を注いでいく。
健ちゃんが「はい」と言って私の前にお茶の入ったコップを置いてくれた。
私は「ありがとう」と言ってコクンッと一口お茶を飲み「じゃ、始めよっか」と鞄から教科書とノートを出す。
健ちゃんもカチカチッとシャーペンの芯を出し勉強を始めた。
「あのさ、ここ分からないんだけど…。」
しばらくして健ちゃんが数学の解けない問題を指差した。
「えーと、それは…逆さまじゃ分かりにくいから健ちゃんの隣に座っていい?」
対面に座っていた私は健ちゃんの隣の席にシャーペンだけ持って移動した。
「えっと…これはねーーー。」
健ちゃんのノートに書き込みを入れながら説明していると
「なんか神崎って、甘い香りがする。」
健ちゃんが突然、私の髪に触れ顔を近づけてきた。
「えっ⁉︎な、なに///」
私はいつもの健ちゃんらしからぬ行動にドキッとしてしまう。
「これってシャンプーの香り?」
そう言った健ちゃんは、私の髪を少し手に取り口元に近づけた後、上目遣いでじっと私を見つめた。
「け、健ちゃん///⁇」
なにっ⁉︎ 健ちゃんの行動がさっきからなんか変なんだけどっ⁇
どうしようっ⁉︎
健ちゃんが健ちゃんじゃないみたいっ///
「そ、そうだっ。やっぱり健ちゃんの部屋を見たいなっ。」
私は余りに健ちゃんとの距離が近くて、しかもいつもと違う健ちゃんの行動に焦りまくり、勢いよく席を立った。
「プッ…。いいよ、俺の部屋見に行こうか?」
笑った健ちゃんの顔をよく見ると、なんだか少し赤くなっている気がした。
「こっちだよ」と階段を上っていく健ちゃんの後をついていくと、健ちゃんは上りきって1番手前の部屋の前で止まってドアを開ける。
「見るだけだぞ?中には入るなよ。」
「はーい」と元気よく言った私は意地悪気分で約束を破って部屋の中へ入った。
「おいっ、ちょっと待てって。神崎っ!」
逃げ回る私の腕を健ちゃんが掴んだ時
「うわっ!」
「きゃっ!」
体勢を崩してベッドへ2人して倒れ込んでしまった。
気が付けば私は仰向けで、健ちゃんが四つん這いになり私を閉じ込めてるような状況になっていた。
「ご、ごめんっ/// 調子に乗りすぎたね。」
私は慌てて身体の向きを横にしてベッドから、いや、健ちゃんの腕の中から抜け出そうとした。
パシッ…
…えっ⁉︎
横向きになった私の身体は、健ちゃんの大きな手に両手を押さえつけられ、また仰向けの状態に戻る。
まさかの状況に頭がついてこなくて、ただ黙って健ちゃんの目を見つめているとーーー
真剣な表情をした健ちゃんの顔がゆっくりと近づいてきて、鼻が触れたと思ったら
ボフッ……
健ちゃんは軌道を変え布団に顔を埋(うず)めた。
そして布団に顔を埋(うず)めたまま「ごめん…」と謝り、私の上から体を起こしベッドに座りなおす。
私も慌てて体を起こしベッドに座った。
健ちゃんは「あーっ!チクショー!」と言いながら両膝に肘をついて頭を抱え込んでいる。
「け、健ちゃん?大丈夫?」
私はさっきの出来事にドキドキしながらも、健ちゃんの事が心配で顔を覗き込んだ。
私と目が合った瞬間、真っ赤になって勢いよく健ちゃんがベッドから立ち上がる。
「神崎って本当に危機感ゼロ!さっき襲われそうになったの分かってるのかよ///」
「…え///?」
「え?じゃなくて…。俺、もうちょっとで神崎に無理矢理キスするところだったんだぞっ///
もしかしたら、それ以上のことをしてたかも知れないんだぞっ///」
「……それ以上の、こと?」
ーーーって、、、まさか…… ーーーっ//////‼︎
「えーーーっ⁉︎///」
さっき健ちゃんが私に何をしようとしてたのかが分かり、ビックリして大声が出た。
「もぉ、マジで勘弁してよ。
だから、部屋には入るなって言ったじゃん。
俺だって男なんだからさ、神崎と2人っきりで手を出さない自信が無かったんだよ///」
「い、いや///でも、健ちゃんは友達だし。まさかそんな…。」
健ちゃんが私になんて手を出すなんて思えないしーーっ。
「とにかくっ、神崎はもうちょっと危機感を持った方がいいよっ///
…ほ、ほらっ、ダイニングに戻って勉強するぞっ。」
そう言って健ちゃんはそそくさと部屋を出て行った。
私も後について階段を下りダイニングに向かう。
健ちゃんとは2年近く一緒にいるけど、今日初めて男の人なんだと実感したんだ。
シャー、シャー、と健ちゃんが元気よくペダルを漕ぐ音がする。
落ちないように健ちゃんのお腹辺りに回している私の手には手袋がはめられていた。
自転車に乗る時に健ちゃんが「寒いから」と言って自分の手袋を貸してくれたんだ。
本当、健ちゃんってば優しいな。
「もうすぐ着くから寒くても我慢して。」
健ちゃんが少し後ろを見て言った。
「私は大丈夫だよ。健ちゃんの背中が暖かいから、全然寒くないよ。」
冷たくなっている頬を健ちゃんの背中に当てて温めてみる。
「なっ⁉︎ か、神崎っ、それっ反則だからっ///」
反則??
あっ、そうか。
私だけ温まるのも悪いよね?
「はーい」と返事をして健ちゃんの背中から頬を離した。
「お前っ、マジでタチが悪い///」
「えー、頬っぺた温めたくらいで、そこまで言わなくてもいいじゃん。」
「はぁぁぁ…。そういうことじゃないんだよなぁ。俺、マジで頑張らないとっ。
ここまで男として見られてないとは思ってなかった。」
自転車を漕ぎながら大きな溜息をついた健ちゃん。
「だから昨日から言ってるけど、健ちゃんはどう見ても男の子だよ。女の子になんて見えないよ。」
「マジ、鈍感っ。」
と言いながらペダルを漕ぐスピードをあげた健ちゃん。
「なんで?私のどこが鈍感なのよっ。」
私が発した言葉は風の音でかき消され、健ちゃんには届かなかったみたいだ。
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「お邪魔しまーす。」
私は靴を脱いで健ちゃんが出してくれたスリッパを履いた。
初めて来た健ちゃんの家は古風な感じの造りで、なんだかおばあちゃんの家に来たみたいで落ち着く。
「こっち。」
健ちゃんに言われて案内されたのはダイニングだった。
「ここに座って」と言って椅子を引いてくれた健ちゃん。
言われるがまま私は指定された椅子に座った。
「え?ここで勉強するの?私はてっきり健ちゃんの部屋でするんだと思ってた。」
「俺も初めはそう思ってたんだけど、今日は親が居ないし、部屋なんて個室に入ったら…俺、自信ない///」
健ちゃんは口元に手を当て真っ赤な顔をしている。
「へ?なんの自信?」
私が言っている意味が分からず首を傾げると「鈍感」とまた言われてしまった。
健ちゃんは食器棚からコップを2つ出し、テーブルに置いてあったペットボトルのお茶を注いでいく。
健ちゃんが「はい」と言って私の前にお茶の入ったコップを置いてくれた。
私は「ありがとう」と言ってコクンッと一口お茶を飲み「じゃ、始めよっか」と鞄から教科書とノートを出す。
健ちゃんもカチカチッとシャーペンの芯を出し勉強を始めた。
「あのさ、ここ分からないんだけど…。」
しばらくして健ちゃんが数学の解けない問題を指差した。
「えーと、それは…逆さまじゃ分かりにくいから健ちゃんの隣に座っていい?」
対面に座っていた私は健ちゃんの隣の席にシャーペンだけ持って移動した。
「えっと…これはねーーー。」
健ちゃんのノートに書き込みを入れながら説明していると
「なんか神崎って、甘い香りがする。」
健ちゃんが突然、私の髪に触れ顔を近づけてきた。
「えっ⁉︎な、なに///」
私はいつもの健ちゃんらしからぬ行動にドキッとしてしまう。
「これってシャンプーの香り?」
そう言った健ちゃんは、私の髪を少し手に取り口元に近づけた後、上目遣いでじっと私を見つめた。
「け、健ちゃん///⁇」
なにっ⁉︎ 健ちゃんの行動がさっきからなんか変なんだけどっ⁇
どうしようっ⁉︎
健ちゃんが健ちゃんじゃないみたいっ///
「そ、そうだっ。やっぱり健ちゃんの部屋を見たいなっ。」
私は余りに健ちゃんとの距離が近くて、しかもいつもと違う健ちゃんの行動に焦りまくり、勢いよく席を立った。
「プッ…。いいよ、俺の部屋見に行こうか?」
笑った健ちゃんの顔をよく見ると、なんだか少し赤くなっている気がした。
「こっちだよ」と階段を上っていく健ちゃんの後をついていくと、健ちゃんは上りきって1番手前の部屋の前で止まってドアを開ける。
「見るだけだぞ?中には入るなよ。」
「はーい」と元気よく言った私は意地悪気分で約束を破って部屋の中へ入った。
「おいっ、ちょっと待てって。神崎っ!」
逃げ回る私の腕を健ちゃんが掴んだ時
「うわっ!」
「きゃっ!」
体勢を崩してベッドへ2人して倒れ込んでしまった。
気が付けば私は仰向けで、健ちゃんが四つん這いになり私を閉じ込めてるような状況になっていた。
「ご、ごめんっ/// 調子に乗りすぎたね。」
私は慌てて身体の向きを横にしてベッドから、いや、健ちゃんの腕の中から抜け出そうとした。
パシッ…
…えっ⁉︎
横向きになった私の身体は、健ちゃんの大きな手に両手を押さえつけられ、また仰向けの状態に戻る。
まさかの状況に頭がついてこなくて、ただ黙って健ちゃんの目を見つめているとーーー
真剣な表情をした健ちゃんの顔がゆっくりと近づいてきて、鼻が触れたと思ったら
ボフッ……
健ちゃんは軌道を変え布団に顔を埋(うず)めた。
そして布団に顔を埋(うず)めたまま「ごめん…」と謝り、私の上から体を起こしベッドに座りなおす。
私も慌てて体を起こしベッドに座った。
健ちゃんは「あーっ!チクショー!」と言いながら両膝に肘をついて頭を抱え込んでいる。
「け、健ちゃん?大丈夫?」
私はさっきの出来事にドキドキしながらも、健ちゃんの事が心配で顔を覗き込んだ。
私と目が合った瞬間、真っ赤になって勢いよく健ちゃんがベッドから立ち上がる。
「神崎って本当に危機感ゼロ!さっき襲われそうになったの分かってるのかよ///」
「…え///?」
「え?じゃなくて…。俺、もうちょっとで神崎に無理矢理キスするところだったんだぞっ///
もしかしたら、それ以上のことをしてたかも知れないんだぞっ///」
「……それ以上の、こと?」
ーーーって、、、まさか…… ーーーっ//////‼︎
「えーーーっ⁉︎///」
さっき健ちゃんが私に何をしようとしてたのかが分かり、ビックリして大声が出た。
「もぉ、マジで勘弁してよ。
だから、部屋には入るなって言ったじゃん。
俺だって男なんだからさ、神崎と2人っきりで手を出さない自信が無かったんだよ///」
「い、いや///でも、健ちゃんは友達だし。まさかそんな…。」
健ちゃんが私になんて手を出すなんて思えないしーーっ。
「とにかくっ、神崎はもうちょっと危機感を持った方がいいよっ///
…ほ、ほらっ、ダイニングに戻って勉強するぞっ。」
そう言って健ちゃんはそそくさと部屋を出て行った。
私も後について階段を下りダイニングに向かう。
健ちゃんとは2年近く一緒にいるけど、今日初めて男の人なんだと実感したんだ。