メガネの王子様
*****
私は陽葵と移動教室のため廊下を歩いていた。
「あっ!教科書忘れて来ちゃったっ!」
私は教科書を机の中に忘れて来たことに気付く。
「もぉ、何やってんの?待っててあげるから早く取ってきなよ。」
「うん。あ、授業に遅れると悪いから先に行ってて。ごめんねっ陽葵。」
慌てて教室に走って帰り、勢いよくガラッと扉を開けた私は、一瞬にして金縛りにあったかのように体が固まる。
もう教室には誰も居ないと思っていたのに…
「何?忘れ物?」
窓から外を眺めていた彼が振り返って言った。
「……………あ、…うん。」
まさか、桐生がまだ教室に居たなんて。
しかも、話しかけてくるなんて想像もしてなかった。
だって、「関わるな」「話しかけるな」なんて言われちゃってんだもん。
誰も桐生から話しかけられるなんて思わないよね?
ドキドキと暴れている胸に手を当て、自席の机の中から教科書を取り出し、私がすぐに教室を出ようとすると
「なぁ。」
桐生の声が聞こえて、本当に声を掛けられたのか半信半疑で振り返ると、バチッと目が合った。
一歩二歩と桐生がゆっくりとこっちへ近づいてくる。
な、なに?
なんで近づいて来るの?
緊張して体に力が入りカチコチに固まってしまう。
手の届く位置まで来た桐生は、机と自分の間に私を挟み込んだ。
驚いた私が一歩後ろへ動いたため、ガタッと音を立てて机がずれる。
「…神崎さんって、町田と付き合ってるんですか?」
近すぎる桐生との距離に、私はドキドキとしてしまって言葉が上手く出てこない。
俯いて何も答えない私に桐生はもう一度同じ質問する。
「なぁ、お前、町田と付き合ってんの?」
桐生が敬語じゃなくなった事に驚いて、顔を上げると思ったより近くに桐生の顔があって、またすぐに目を逸らし俯いた。
ドキドキなんてしちゃいけないのにっ。
私は健ちゃんの彼女になったんだよっ。
心配かけちゃいけないっ。
不安にさせちゃいけないんだ。
気合を入れてもう一度、桐生を見上げ、私は強い視線を向けた。
「桐生には関係ない。」
勇気を振り絞って発した言葉。
眼鏡の奥にある桐生の綺麗な瞳が揺れるのが見えたと思ったら、無表情だった桐生の顔が痛みを堪えるような表情に変わる。
なんでそんな顔をするの?
桐生は私の事が嫌いなんだから、私が誰と付き合おうが関係ないでしょ?
「関わるな」って言ったじゃんっ。
「話しかけるな」って言ったじゃんっ。
なのになんで急に話しかけてくるのよっ。
なんで、今、そんな顔をするのよっ。
私は桐生の胸を両手で押して、すぐにこの場から逃げようとした。
なのにーーーーー
長い腕で私を捕らえ、ぎゅっと抱きしめて私の視界を遮る桐生。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
どうして⁉︎
私の事が嫌いなんでしょっ⁉︎
なのに、なんで抱き締めたりなんかするの⁉︎
しばらくして頭が働き出し、怒りのような感情が込み上げてくる。
「離してっ!」
力一杯に押してもビクともしない桐生の体を何度も何度も私は押した。
抱きしめられてドキドキする気持ちや、今更なんで?っていう怒りにも似た気持ち。
そして健ちゃんに対しての罪悪感。
色んな感情が渦巻きあって涙が零れそうになっていたとき、パッと視界が明るくなったかと思ったら腕を引っ張られ、また視界が暗くなる。
「俺の彼女に触れんなっ‼︎」
突然、怒鳴り声が教室に響き渡った。
「…健、ちゃん。」
気が付けば健ちゃんに抱き締められていた私は、恐る恐る健ちゃんの顔を見上げる。
真っ直ぐに桐生を睨みつけている健ちゃんの顔は私が初めて見るものだった。
「神崎は俺の彼女だからっ。今後一切、神崎にちょっかいかけんなっ!」
「行くぞ」と言って、健ちゃんは私の手首を掴み強引に引っ張って教室を出ていく。
私は、ただただ黙って健ちゃんの後をついて行った。
私は陽葵と移動教室のため廊下を歩いていた。
「あっ!教科書忘れて来ちゃったっ!」
私は教科書を机の中に忘れて来たことに気付く。
「もぉ、何やってんの?待っててあげるから早く取ってきなよ。」
「うん。あ、授業に遅れると悪いから先に行ってて。ごめんねっ陽葵。」
慌てて教室に走って帰り、勢いよくガラッと扉を開けた私は、一瞬にして金縛りにあったかのように体が固まる。
もう教室には誰も居ないと思っていたのに…
「何?忘れ物?」
窓から外を眺めていた彼が振り返って言った。
「……………あ、…うん。」
まさか、桐生がまだ教室に居たなんて。
しかも、話しかけてくるなんて想像もしてなかった。
だって、「関わるな」「話しかけるな」なんて言われちゃってんだもん。
誰も桐生から話しかけられるなんて思わないよね?
ドキドキと暴れている胸に手を当て、自席の机の中から教科書を取り出し、私がすぐに教室を出ようとすると
「なぁ。」
桐生の声が聞こえて、本当に声を掛けられたのか半信半疑で振り返ると、バチッと目が合った。
一歩二歩と桐生がゆっくりとこっちへ近づいてくる。
な、なに?
なんで近づいて来るの?
緊張して体に力が入りカチコチに固まってしまう。
手の届く位置まで来た桐生は、机と自分の間に私を挟み込んだ。
驚いた私が一歩後ろへ動いたため、ガタッと音を立てて机がずれる。
「…神崎さんって、町田と付き合ってるんですか?」
近すぎる桐生との距離に、私はドキドキとしてしまって言葉が上手く出てこない。
俯いて何も答えない私に桐生はもう一度同じ質問する。
「なぁ、お前、町田と付き合ってんの?」
桐生が敬語じゃなくなった事に驚いて、顔を上げると思ったより近くに桐生の顔があって、またすぐに目を逸らし俯いた。
ドキドキなんてしちゃいけないのにっ。
私は健ちゃんの彼女になったんだよっ。
心配かけちゃいけないっ。
不安にさせちゃいけないんだ。
気合を入れてもう一度、桐生を見上げ、私は強い視線を向けた。
「桐生には関係ない。」
勇気を振り絞って発した言葉。
眼鏡の奥にある桐生の綺麗な瞳が揺れるのが見えたと思ったら、無表情だった桐生の顔が痛みを堪えるような表情に変わる。
なんでそんな顔をするの?
桐生は私の事が嫌いなんだから、私が誰と付き合おうが関係ないでしょ?
「関わるな」って言ったじゃんっ。
「話しかけるな」って言ったじゃんっ。
なのになんで急に話しかけてくるのよっ。
なんで、今、そんな顔をするのよっ。
私は桐生の胸を両手で押して、すぐにこの場から逃げようとした。
なのにーーーーー
長い腕で私を捕らえ、ぎゅっと抱きしめて私の視界を遮る桐生。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
どうして⁉︎
私の事が嫌いなんでしょっ⁉︎
なのに、なんで抱き締めたりなんかするの⁉︎
しばらくして頭が働き出し、怒りのような感情が込み上げてくる。
「離してっ!」
力一杯に押してもビクともしない桐生の体を何度も何度も私は押した。
抱きしめられてドキドキする気持ちや、今更なんで?っていう怒りにも似た気持ち。
そして健ちゃんに対しての罪悪感。
色んな感情が渦巻きあって涙が零れそうになっていたとき、パッと視界が明るくなったかと思ったら腕を引っ張られ、また視界が暗くなる。
「俺の彼女に触れんなっ‼︎」
突然、怒鳴り声が教室に響き渡った。
「…健、ちゃん。」
気が付けば健ちゃんに抱き締められていた私は、恐る恐る健ちゃんの顔を見上げる。
真っ直ぐに桐生を睨みつけている健ちゃんの顔は私が初めて見るものだった。
「神崎は俺の彼女だからっ。今後一切、神崎にちょっかいかけんなっ!」
「行くぞ」と言って、健ちゃんは私の手首を掴み強引に引っ張って教室を出ていく。
私は、ただただ黙って健ちゃんの後をついて行った。