メガネの王子様
◇◇◇◇◇



ガラッ、ピシャッ、と勢いよく閉まった扉。

町田が現れて神崎を連れていかれてしまった。

俺はチャイムが鳴り授業が始まった今、誰も居ない教室で「はぁ…」と大きな溜息をつく。

「マジで何やってんだ?俺…。」

今の俺は後悔の塊だ。

なんであの時、話を聞いてやらなかったんだ?

なんで、あいつを信じてやらなかったんだ?

なんでっ、あいつを手放したんだーーーー
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「私、見た目重視なんだよね。
つまり、イケメンじゃないと付き合わないってこと。
悪いけど、アンタじゃ役不足なんだよね。」



冷たい視線を相手に向け、そう言い放った神崎。

俺は自分の耳を疑った。

あいつがそんな事言うわけがない。

そう思うが、さっきの他のクラスの男達が話していた事を思い出す。

「そうそう、神崎さんってイケメンとしか付き合わないらしーぜ?」

「あの子の周りイケメンばっかだよな。清宮先輩だってそうだし、健人だってイケメンじゃん。」

「なんかさ、中学の時の彼氏も超イケメンだったらしいぜ。」

神崎はイケメンとしか付き合わない……。

ただの噂だと思ってたけど、本人の口からその言葉が出てしまった今、事実だったんだと確信する。

心がどんどん冷えていくのが分かった。

下を向いて歩いてきた神崎とぶつかり目が合う。



「あれがお前の本性かよ。」



自分の声とは思えないほど、低く冷たい声が出た。

「違う」と何か必死に言い訳をしようとしている神崎の姿が目に入るが、全く聞く気にもなれない。

俺はこいつに騙されてたんだ。

俺はこいつに裏切られたんだ。

最近、芽生えていた何かがパリンッと割れる音がした。



やっぱり、誰も信用なんて出来ないーーー。




そう思った俺は、涙ぐんでいる神崎の耳元に口を近づけて

「二度と俺に関わるな。」

と一言だけ言って、あいつをひとり残しその場を離れた。

その後、何度も俺に話しかけてきた神崎を俺は無視した。

その度に、あいつの傷付いた顔が脳裏に焼き付く。

傷付けたくはないんだ。そう思うけど…

でも、俺を裏切ったあいつが許せなくて

「話し掛けないで貰えますか。」

必死に何かを訴えようとしている神崎を俺は冷たく突き放した。

修学旅行から帰ってきても神崎とは距離をとっていた、そんなある日、俺は佐久川に呼び出されて屋上へ行った。

「何ですか?」

「あんたさ、いい加減にしてくれない?」

仁王立ちで胸の前で腕を組んだ佐久川が、鬼のような形相で言った。

「は?」

「は?じゃないっ。なんで萌香の話を聞いてあげないわけ?なんで無視なんてするのよっ。」

「俺、被害者なんだけど?なんで言い訳を聞かないといけないわけ?」

腹が立った俺は無意識のうちに敬語を使うのを忘れていた。

「へぇ、それが桐生の素の姿なんだ。」

しまったと思った時点ではもう遅かった。

「だから?」と居直って話しを続ける。

「別にあんたの本性がどんなでも私は興味ないのよ。萌香さえ傷付けられなければそれでいいの。」

「だから、なんでそっちが被害者?」

「あんたって本当に萌香のこと分かってないよねっ。
あの子が本当に見た目だけで人を判断すると思うの? 」

「そう、本人が言ってたからそうなんじゃねーの。」

「そんなわけ無いでしょっ!
萌香は昔、ストーカーまがいな事をされて大変だったのっ。
変な奴には、ああ言えってわたしが教えたのよっ。」

はぁ、はぁ、と息を切らしながら一気に話した佐久川。

すぅーと一度、深呼吸してから

「結局、あんたも見た目で人を判断してんじゃないの?」

佐久川のその一言が俺の心に突き刺さった。

心のどこかで神崎の事を「派手な女」と見ていて、中身も今まで出会った女達と同じだと思ってしまっていたのかも知れない。

何も答えない俺に佐久川は

「健ちゃんは覚悟決めて萌香に気持ちを伝えるみたいだよ。私も正直、今はあの2人がくっついてくれた方がいいと思ってる。」

「それだけ」と言って佐久川は屋上を出て行くが途中で一旦止まり「萌香の気持ちが1番大事だけど」と呟いた。

俺には何を言ったのかよく聞こえなかった。

「あーっ!クソッ‼︎」

俺はガシャンッとフェンスを思いっきり殴る。

なんなんだよっ!

何、振り回されてんだよっ俺‼︎

なんでっ、あいつを信じてやらなかったんだっ!

他の奴のことなんて信じてしまったんだよっ。

俺は自分自身が情けなくて、その場にうずくまり、しばらくの間、動く事が出来なかった。


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