メガネの王子様
◇◇◇◇◇



俺はいつも通り別校舎で本を読んでいた。

10月くらいまでは校舎裏の階段で本を読んでいたけど、さすがに12月は寒いので、人気のない別校舎の階段に場所を変えていた。

ここは晴れていれば、陽当たりが良くとても暖かい。って言っても冬の朝はさすがに寒いけど…。

今日は天気が良くて、ふと何気に外を見た。

窓からはグランドや自転車置場が見えるんだけど……

俺は入ってきた光景に目を見開く。

自転車に乗った町田、その後ろに乗っている神崎の姿。

2人は自転車置き場で、とても仲が良さそうにしている。

「健ちゃんは覚悟決めて萌香に気持ちを伝えるみたいだよ」と屋上で佐久川に言われた事を思い出した。

そっか…

町田のヤツ告ったのか。

ーーで神崎はオッケーしたわけだ。

胸がズキンッと痛み、手を当て生まれて初めての痛みに苦笑いをする。

「何だこれ?ハハ…結構、きつい。」

しばらくの間、胸を押さえたまま俺は動く事が出来なかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー

「次、移動教室だって。」

皆んなが教科書やノートを手に持ち、教室を次々に出て行くのを俺は見送った。

移動教室……面倒くさいな。

このまま、ここでサボるか。

なんて思いながら窓際まで行き、そこから外を眺めていた。

今日は朝から、あの光景がずっと頭から離れない。

自転車置き場での神崎と町田の楽しそうな姿。

ちょっと前までは俺も同じくらいの位置にいたはずなのに…

そう思うとモヤモヤとして、どうしようもない気持ちになる。

裏切らたと思って、神崎を自ら手放してしまった事を後悔してる。



ーーー 取り戻したい ーーー



そんな気持ちがどんどん込み上げてくる。



ガラッーーー

勢いよく開いた扉の音に少しビックリして振り返った俺は、目に入ってきた人物に一瞬体が固まった。

ーーー神、崎、?

いきなりの登場に心拍数が上がる。

何か話さないとっ。

逃げられてしまうっ。

「何?忘れ物?」

俺は出来るだけ平静を装い話しかけた。

「……………あ、うん。」

すぐに目を逸らし自分の机の中をゴソゴソしだした神崎。

素っ気ない態度…。

そりゃ、そうだよな?

俺が「関わるな」とか言ったんだし。

勝手なのは分かってる。

でも、やっぱりお前のこと手放せないんだ。

俺は「なぁ」と声をかけ振り向いた神崎の側に一歩ずつゆっくりと近づき、机との間に挟み込み捕らえる。

神崎が一歩後ろに下がったため机がガタッと音を立ててずれた。

俺に近づかれるのがそんなに嫌かよ…。

痛む胸を我慢しつつ、気になっていることを神崎にぶつけてみる。

聞くのは結構怖いけど…。

「…神崎さんって、町田と付き合ってるんですか?」

勇気を出して聞いてみたけど俯いてしまって何も答えない神崎。

目、逸らすなよ。

頼むからこっちを向いてくれ。

「なぁ、お前、町田と付き合ってんの?」

俺が無意識で素の自分で話しかけると、パッと勢いよく顔を上げ俺を見上げて、すぐにまた俯いてしまった神崎。

なんなんだよ…こっち向けよ。

俺は強引にでも、顔をこっちに向かせようと思ったとき、神崎が顔を上げ強い視線を向けてきた。

そして

「桐生には関係ない。」

と強い意志を持って言葉を放った。

ズキンッと心臓をえぐられるような痛み。

俺は同じ言葉を神崎に投げつけたんだ。

あの時、神崎にこんなにも痛い思いを俺はさせてしまったのか?

そう思っていたら、神崎が俺を押し退けてこの場から逃げようとしたので、俺はぎゅっと力一杯に神崎を抱きしめた。

ごめん。

俺が悪かった。

もう、お前を手放したくない。

好きなんだ。

大切にする。

だから、逃げないでくれ。

そう言葉にしようと思い息を吸ったとき、すごい力で腕を振り払われ、神崎を奪われてしまう、

「俺の彼女に触れんなっ!」

町田がすごい剣幕で怒鳴って「今後一切、神崎にちょっかいかけんなっ」と俺を睨んでから神崎を連れて教室を出て行ってしまった。

俺はチャイムが鳴り授業が始まった今、誰も居ない教室で「はぁ…」と大きな溜息をつきその場に座り込む。

「マジで何やってんだ?俺…。」

今の俺は後悔の塊だ。

なんで、話を聞いてやらなかったんだ?

なんで、あいつを信じてやらなかったんだ?

なんでっ、あいつを手放したんだ。

町田の声が頭の中でリフレインする。

「俺の…彼女……か。」

やっぱり付き合ってたんだな…。

前髪をクシャクシャとしながら考える。

俺はどうしたい?

あいつの事、諦めるのか?

ーーーーー嫌だ。

そんなこと出来ない。

諦めるなんてこと出来るわけがない。

こんなに人を好きになったのは初めてなんだ。

絶対、あいつを振り向かせてやるっ。

彼氏?そんなの関係ない。

奪い取ってやるよ。

でも、まずは、神崎に謝らないとな……


< 65 / 78 >

この作品をシェア

pagetop