メガネの王子様
*****
健ちゃんとのデートは、駅前での待ち合わせから始まり、映画を観て、カフェでたくさん話をして2人で笑って、楽しくて楽しくてあっという間に終わってしまった。
「今日は楽しかった。ありがとう、健ちゃん。」
「ん、俺も楽しかった。」
カフェを出て、私たちは帰路の途中で公園に立ち寄りベンチに座る。
住宅街の中にある少し大きめの公園は、ブランコや滑り台、砂場や鉄棒などがあって、昼間は子供たちで賑わっていそうだけど、今は街灯の光だけが灯る静かな空間だった。
「静かだね。」
私は冷たくなった手に息を「はぁ」と吹きかけ温める。
「あ、ごめん。寒いよな?」
「ううん、大丈夫だよ。」
私が笑顔で答えると
「手…冷たくなってるじゃん。」
そう言って健ちゃんは、私の手を大きな手で包み込み温めてくれた。
「健ちゃんの手って大きくて温かいね。」
健ちゃんの優しさが嬉しくって自然に笑みがこぼれる。
最近は健ちゃんに後ろめたい気持ちがいっぱいで作り笑いしか出来なかった。
でも、今日は久しぶりに心から笑えたんだ。
健ちゃんが優しいから。
健ちゃんがいつものように、お日様のような笑顔をたくさん見せてくれたから。
「神崎の手は小さくて可愛いな。」
私の手をきゅっと握ってニッコリと微笑んだ健ちゃんにドキッとなる。
「き、今日の健ちゃん、口がうますぎるよ///」
「俺は本当の事しか言ってないよ///」
じっと見つめてくる健ちゃん。
そんな健ちゃんの瞳が次第に熱を帯びていく。
私は目を逸らすことが出来ず、健ちゃんの瞳に映っている自分を見ていた。
「神崎…。」
目がそっと伏せられ健ちゃんの顔が少しずつ近づいてきて…………
私もそっと目を閉じる。
「やめた。」
私の手から大きな手が離れていったので、そっと閉じていた目を開ける。
すぐ近くにあったはずの健ちゃんの顔が、今は離れた場所にあった。
「…健ちゃん?」
どうしてキス…しなかったの?
キスされると思って私は覚悟を決めたのに。
なんで?
「そんな顔してる神崎に…キスなんて出来ない。」
「え?」
「気付いてない?眉間にめちゃ皺がよってるよ。肩もガチガチに力が入ってるし…。」
ーーーー本当だ。
眉間も肩も健ちゃんの言う通りガチガチだ。
私……健ちゃんを受け入れるつもりだったのになんで?
……………ううん、わかってる。
本当は健ちゃんを受け入れようとしていなかったこと。
やっぱり私の中には桐生がいて、消しても消しても消えない気持ちがある。
「…正直、いけると思ったんだ。」
ハハ…と苦笑いしながら言った健ちゃん。
「え?」
「今日…俺にとっては最後の勝負を賭けた日だったんだ。今日の神崎は本当の笑顔を見せてくれてたし、楽しそうにしてくれてた。だから、このまま神崎と付き合っていけると思った。
…キスできると思った。
でも、勘違いだったみたいだな。神崎の気持ちは、まだまだこっちを向いていなかった。」
健ちゃんはそう言ったあと、膝に肘をつき頭を抱えて下を向いてしまった。
「健ちゃんっ、ごめん、ごめんなさいっ。」
私はバカだ。
優しい健ちゃんをこんなに傷付けるなんて。
やっぱり甘えてはいけなかったんだ。
あの時、バスケ部の部室でちゃんと終わりにしておかないといけなかった。
ううん、違う。
もっと前に……
保健室で健ちゃんに告白されたときに、頭を縦に振るべきじゃなかった。
あのとき、私が桐生に無視されて辛いからって逃げたのがダメだったんだ。
目頭が熱くなってきて涙が零れそうになるのを必死に我慢する。
だって….こんなときに泣くなんてズルいから。
「…神崎。」
健ちゃんが顔を上げ私を切なそうに見つめる。
そして
「別れよう。」
健ちゃんは弱々しく笑い終わりを告げた。
健ちゃんとのデートは、駅前での待ち合わせから始まり、映画を観て、カフェでたくさん話をして2人で笑って、楽しくて楽しくてあっという間に終わってしまった。
「今日は楽しかった。ありがとう、健ちゃん。」
「ん、俺も楽しかった。」
カフェを出て、私たちは帰路の途中で公園に立ち寄りベンチに座る。
住宅街の中にある少し大きめの公園は、ブランコや滑り台、砂場や鉄棒などがあって、昼間は子供たちで賑わっていそうだけど、今は街灯の光だけが灯る静かな空間だった。
「静かだね。」
私は冷たくなった手に息を「はぁ」と吹きかけ温める。
「あ、ごめん。寒いよな?」
「ううん、大丈夫だよ。」
私が笑顔で答えると
「手…冷たくなってるじゃん。」
そう言って健ちゃんは、私の手を大きな手で包み込み温めてくれた。
「健ちゃんの手って大きくて温かいね。」
健ちゃんの優しさが嬉しくって自然に笑みがこぼれる。
最近は健ちゃんに後ろめたい気持ちがいっぱいで作り笑いしか出来なかった。
でも、今日は久しぶりに心から笑えたんだ。
健ちゃんが優しいから。
健ちゃんがいつものように、お日様のような笑顔をたくさん見せてくれたから。
「神崎の手は小さくて可愛いな。」
私の手をきゅっと握ってニッコリと微笑んだ健ちゃんにドキッとなる。
「き、今日の健ちゃん、口がうますぎるよ///」
「俺は本当の事しか言ってないよ///」
じっと見つめてくる健ちゃん。
そんな健ちゃんの瞳が次第に熱を帯びていく。
私は目を逸らすことが出来ず、健ちゃんの瞳に映っている自分を見ていた。
「神崎…。」
目がそっと伏せられ健ちゃんの顔が少しずつ近づいてきて…………
私もそっと目を閉じる。
「やめた。」
私の手から大きな手が離れていったので、そっと閉じていた目を開ける。
すぐ近くにあったはずの健ちゃんの顔が、今は離れた場所にあった。
「…健ちゃん?」
どうしてキス…しなかったの?
キスされると思って私は覚悟を決めたのに。
なんで?
「そんな顔してる神崎に…キスなんて出来ない。」
「え?」
「気付いてない?眉間にめちゃ皺がよってるよ。肩もガチガチに力が入ってるし…。」
ーーーー本当だ。
眉間も肩も健ちゃんの言う通りガチガチだ。
私……健ちゃんを受け入れるつもりだったのになんで?
……………ううん、わかってる。
本当は健ちゃんを受け入れようとしていなかったこと。
やっぱり私の中には桐生がいて、消しても消しても消えない気持ちがある。
「…正直、いけると思ったんだ。」
ハハ…と苦笑いしながら言った健ちゃん。
「え?」
「今日…俺にとっては最後の勝負を賭けた日だったんだ。今日の神崎は本当の笑顔を見せてくれてたし、楽しそうにしてくれてた。だから、このまま神崎と付き合っていけると思った。
…キスできると思った。
でも、勘違いだったみたいだな。神崎の気持ちは、まだまだこっちを向いていなかった。」
健ちゃんはそう言ったあと、膝に肘をつき頭を抱えて下を向いてしまった。
「健ちゃんっ、ごめん、ごめんなさいっ。」
私はバカだ。
優しい健ちゃんをこんなに傷付けるなんて。
やっぱり甘えてはいけなかったんだ。
あの時、バスケ部の部室でちゃんと終わりにしておかないといけなかった。
ううん、違う。
もっと前に……
保健室で健ちゃんに告白されたときに、頭を縦に振るべきじゃなかった。
あのとき、私が桐生に無視されて辛いからって逃げたのがダメだったんだ。
目頭が熱くなってきて涙が零れそうになるのを必死に我慢する。
だって….こんなときに泣くなんてズルいから。
「…神崎。」
健ちゃんが顔を上げ私を切なそうに見つめる。
そして
「別れよう。」
健ちゃんは弱々しく笑い終わりを告げた。