メガネの王子様
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重い扉を開けて外に出ると空は青一色だった。

誰も居ない屋上は、ワーワーと遠くの方から楽しそうな声が聞こえてくる。

私と陽葵はフェンスの前の段差に腰掛けてお弁当を広げた。

「今日も陽葵のお弁当、美味しそうだね。」

「へへ…ありがとう。今日は栗ご飯にしてみました。」

お弁当箱を少し傾けて私に見せてくれる陽葵、可愛い。

本当に陽葵っていいお嫁さんになるよね。

私達はいつも通りお喋りしながらお昼ご飯を食べた。

そして、食べ終わった頃

「ーーで、健ちゃんが清宮先輩を嫌いなのか?って話しなんだけど…。」

お弁当箱を片付けながら、陽葵は話の本題に入った。

私はじっと陽葵の話に耳を傾ける。

健ちゃんと清宮先輩の間に何があったんだろう…?

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私と健ちゃんが中学2年生のとき、健ちゃんに初めて彼女が出来たの。

彼女、愛美(まなみ)ちゃんは同級生でバスケ部のマネージャーでもあったんだ。

1年のときから健ちゃんは愛美ちゃんのことが好きで、レギュラーになれたことをきっかけに勇気を出して告白して付き合えることになったの。

初めは2人共、私がヤキモチ妬いちゃうくらい仲が良くて、とても幸せそうだった。

でも、同じバスケ部にいた清宮先輩が途中から愛美ちゃんにちょっかいをかけるようになってーーー

ある日、愛美ちゃんと清宮先輩がキスしてるところを健ちゃんが見てしまったの。

健ちゃんは愛美ちゃんの浮気を黙って許そうとしてた。

だけど、愛美ちゃんから別れを告げられて、結局2人は別れた。

次の日から愛美ちゃんは清宮先輩と付き合いだして…あの時の健ちゃんの姿、痛々しくて見てられなかったよ。

しばらく経って、愛美ちゃんから笑顔が無くなっていったの。

清宮先輩は今と同じで当時もすごくモテてたから…愛美ちゃん、清宮先輩のファンの人達にイジメられちゃってね。

何度か健ちゃんが助けに入ったけど、なかなかイジメが無くならなくて、とうとう愛美ちゃんは学校に来なくなった。

清宮先輩は愛美ちゃんを助けるどころか、すぐに別の女の子と付き合い出したんだ。

健ちゃんは清宮先輩のことを許せなくて、部活中に殴っちゃってさ。

2人とも謹慎処分を受けて、学校に出てきたときに清宮先輩はバスケ部を辞めた。

清宮先輩が悪いのは皆んな分かってるから、健ちゃんを責める人はひとりもいなかった。

だから清宮先輩は部に居づらくなって、バスケ部を辞めたのかも知れないね。

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「中学時代にそんなことがあったから、今、清宮先輩が萌香にちょっかい出してるのが心配なんだと思う。もちろん、私も。」

陽葵は眉を下げ少しだけ口角を上げ微笑む。

そっか…そんなことがあったんだ。

でも……………

清宮先輩って確かに軽いっていうか、女の子の扱いに慣れてる感じだけど、そんなヒドイことをするような人には思えなかったんだけどな?



予鈴がなり、私達は再び重い扉を開け教室へ戻っていった。


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