メガネの王子様
気付いちゃったんです
午後のHR、担任の先生がチョークを持ち黒板に大きな字を書いた。
文化祭実行委員
うちの学校は10月に文化祭があって、クラスで劇をやったり茶店を出したりする。
去年はタコ焼き屋さんをしたんだ。
陽葵と健ちゃんと同じクラスだったから、とっても楽しかったのを覚えてる。
今年は何をするのかなぁ?
「じゃあ、公平にクジ引きで実行委員を決めるぞー。」
そう言って先生はクジが入った箱を皆んなに回した。
私も箱からクジを1枚引く。
ーーーーーゲッ⁉︎
まさかの大当たり?
「はーい、女子の実行委員は神崎に決定。
男子はーーーーー。」
誰だろ?
せめてやり易い人であって欲しい。
「ーーーーーお、桐生。よろしく頼むなっ。」
先生が黒板に私と桐生の名前を書いた。
えーーーーーっ⁉︎嘘でしょっ⁇
超やりにくいんですけど………。
こうしてクジ運の悪い私は、桐生と文化祭実行委員をすることになってーーーーー
さっきのHRでコスプレ喫茶をする事が決まり、放課後の今、2人っきりで教室に残って打ち合わせをしています。
「まず、衣装をどうするかだよね?買うか作るか…ねぇ、桐生、聞いてるの?」
私がさっきからノートを広げて一生懸命に考えているのに、桐生ってば黙ったままずっとグランドの方を見ている。
なんだか分からないけど、今朝から機嫌が悪いんだよね。
このモサ眼鏡っ!
時間が無いからサッサと決めなきゃいけないのに、ボーとしちゃってさっ。
少しイラッとした私は桐生に嫌がらせをする事にした。
私の前に座りボーと外を見ている桐生に、手をそっと伸ばして冴えない眼鏡を外してやる。
「何するんだよ。」
案の定、不機嫌な顔で私を見た桐生。
そんな顔も相変わらずのイケメン…。
「あ、あんたが全然、協力してくれないからじゃん。ちょっとは一緒に考えてよねっ。」
私は桐生の綺麗な顔をキッと睨みつけたけど、そんなの桐生には全く効果がなくて…
それどころか….
「ククッ…そんな見つめんなよ。」
なんて言って私の両手首を掴み、真っ直ぐに見つめてくる桐生。
誰も見つめてなんてないって言い返したいのに、桐生の妖艶な瞳に捕らわれ、私の鼓動はどんどん加速していく。
「は、離してっ///」
心臓がもたないよっ。
力一杯に桐生の手を振り払おうとしても、力の差がありすぎてビクともしない。
「神崎って派手なくせに、男慣れしてねぇのな。隙がありまくりなんだけど?」
はぁっ?
悪かったわねっ、男慣れしてなくて!
イケメンバージョンの桐生って本当にムカつくんですけどっ‼︎
「うるさいっ!離しっ…んっ。」
掴まれた手首をいきなり強引に引っ張られ、私の唇はいつの間にか桐生によって塞がれていた。
「んっ…あ…ちょ…きりゅ…っ。」
この前の「契約のしるし」とは全く違う甘くて濃厚なキス…
桐生に翻弄され私は抵抗する力も出ない。
「ほら、やっぱ隙だらけじゃん。」
私の唇を解放した桐生は、いつもの意地悪な表情を見せながら言った。
「す、隙がだらけって。あんたが強引にしてきたんでしょっ///」
「プハッ、顔が真っ赤。ホント、神崎って飽きねぇな。」
なんなのよっ!
からかう為にキスなんてしないでよっ///
焦ってる私とは正反対で桐生にはいつも余裕がある。
悔しいっ。
いつも、いつも、私ばかりがいっぱいいっぱいでーーー
眼鏡をかけモサ眼鏡に戻った桐生は、カタンッと椅子をならし席を立った。
「衣装を一から作るのは時間と労力を要するので、演劇部に借りたり、持っている浴衣、中学時代のセーラー服や詰襟とかでも十分コスプレになると思います。」
「ちゃんと考えてくれてたんだ…。」
ただグランドをボーと眺めているだけかと思ってた。
「一応、実行委員なので…。じゃ、僕は帰りますね。」
「…えっ?あ、うん。」
ーーーあ、昨日、助けてもらったお礼を言わなきゃと思ってたのにまだ言ってなかった。
「き、桐生っ。昨日は助けてくれてありがとうっ///」
私がお礼を言うと、桐生はフッと笑って机に片手をつき少し屈んだと思ったらーーーーー
チュッ…
私の頬でならされた小さなリップ音。
「今朝の消毒です。あまり他の男に簡単に触れさせないで下さい。」
あの甘くて魅惑的な低音ボイスで囁く。
真っ赤になった私を見て桐生は、またフッと笑い鞄を持って教室を出て行った。
な、なに?今のっ///
ひょっとして、今朝、清宮先輩にキスされたのを桐生に見られてた⁉︎
え?なに?簡単に触れさせないでってどういうこと⁇
機嫌が悪かったのは清宮先輩のせい⁇
どうして、さっき、私にあんなキスをしたの⁇
分からないことばかりで頭が混乱する。
でも、これだけは分かってしまった…
ーーーーー 私、
桐生のことが好きだ ーーーーー