運命は硝子の道の先に
3 これは偶然、それとも
「このような事例があった場合、自分であればどう対処するか、できるだけ具体的に書くように。時間は五分。近くの人と話し合っても構わない。では、始め」
合図と同時に講義室が一気に騒がしくなる。講義を受けている学生の大半は、与えられた五分を思考でなく無駄話に費やしているのだ。これが教師の卵だというのだから、全く大学は面白い。もちろん、皮肉だ。
そういう私も、頭はすっかり昨日の出来事へと行ってしまっていた。隣の席に座る結衣(ゆい)は、私の顔を覗き込み、小さく首を傾げる。
「どうしたの、一花(いちか)」
「いや、二日酔いで頭が痛くて」
「やだ、惚気? 昨日は随分楽しみだったようで」
「違うよ。そんなんじゃない」
「そんなんじゃないって、どういうこと?」
結衣は左手に持っていたシャープペンシンルを置いて、両手を組んだ。熱心に耳を傾けるときのその仕草に、私は思い切って話すことにした。
「昨日、蓮は来なかったの」
「来なかったって、」
「またドタキャン。きっと浮気相手の所に行ったの」
「また? これで何度目なの?」
「……五度目」
ちょうど答えたところで教授がそばを通る。結衣がすかさずワークシートを持ち上げ、私は適当に意見を述べた。学校側が関係機関にどうたらこうたら、と。監視の目が通り過ぎると、結衣は身を乗り出し、追求を続ける。
「でも、昨日は記念日だったんでしょ」
「そう、しかも大事な大事な一周年の、ね」
「それって、……一花、大丈夫?」
相変わらず真っ先に人を心配する。そんな結衣の言葉に癒されつつも、私の感情は収まりそうになかった。表面のプリントが所々掠れたシャープペンシルを勢い良く振り回す。
「今度こそ許すつもりはないから」