運命は硝子の道の先に

「えらく強気だね」

「当然でしょ。寧ろここまで耐えた自分を褒めてあげたいくらい」

 ペン先を避けて、結衣は苦笑い。いつもは穏やかな友も、ばっさりと切り捨てるような振る舞いには戸惑いを隠せなかったようだ。ワークシートをパッと机に置き、少し遠ざかった。三人一組の机の表面はフラットで、その勢いに紙まで空いた席の前に滑っていく。

「……でも、何だかんだ言って許すんでしょ」

「まさか。そんなわけない」

「あるよ、一花は蓮さんが好きなんだから」

「好きだけど、今度ばかりは許せない」

「蓮さんと別れられるの? 友人か他人かにでも戻るつもり?」

「それは……無理かもしれないけど」

「でしょ?」

 結局いつもそうなるのよ、とばかりに片眉を上げる結衣。ただの知り合いだったら反論の一つでもしていたかもしれないが、この友の前では嘘もごまかしも利かないのだから言い返してもしょうがない。シャープペンシルを顎に当てて考えるふりをしながら、私は肩を落とした。

 毎度毎度繰り返す、別れる別れないの問答。
 どんなに傷付き、涙を流しても、最後には蓮を許してしまうのだ。
 情けなく、弱い自分に腹が立つ。でも、変わりようがない。蓮はただ一人の人だと、運命の人だと、出会ったときから確信し、今でも信じているのだから。自分の心に反することはしたくない。

「私はいいんだよ。一花がそれで幸せだって言うんなら」

「……うん」

「でも、やっぱり辛いだろうし、蓮さんは蓮さんだからどうしようもない部分もある。それでも、一花にはその全てを受け入れる覚悟があるんでしょ?」

 結衣はまた両手を組んで、私を真っ直ぐに見つめた。真剣な表情だ。

 ……覚悟、なんてあるのだろうか。
 蓮のことはよく知っている。もう出会って三年経つのだから。良いところも、悪いところも受け入れる自信はある。だが、こと浮気癖に関しては、理解に苦しむところもあり、その全てを受け入れられるとは決して思わない。それでも私は、蓮と一緒に、と願ってしまう。

「自信はない。けど、蓮とは離れない。私は蓮の彼女でいたいの」

「……そっか。うん、分かった。一花が決めたことなら」

「……うん。いつもごめんね、結衣。私のことばっかり」

「何言ってるの。私は一花の友だち、それも無二の親友だよ。私が聞かなくて、誰が聞くの」

 そう言って、彼女は誰よりも温かい笑顔を私に見せた。

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