運命は硝子の道の先に
それから約二十分後。結衣の大欠伸とともに講義は終わった。私たちは急ぎ足で学食へと向かう。
廊下を縦横無尽に歩く学生たち。幾つもの群れを成して、まるでヒヨドリのようだ。朝に小煩く鳴くその鳥は、獲物、特に甘い果物を前にすると獰猛になるという。ときには先に獲物にありついた鳥さえも蹴散らすというのだから、強欲なことこの上ない。そのくせ、人に対しては臆病なのだ。臆病ながらも、すぐ懐く。
弱いのに、ずる賢くて。
肩をすぼめてそばを通る学生の方がよっぽと格好良く見える。
「今日は何食べようかな」
大声で騒ぐ男子学生を横目に、結衣は朗らかにそう言った。
「確か、今日から北の海フェアがあったような」
「それって、魚介類のメニューってこと?」
「たぶんね。サーモンとかラーメンとかじゃないかな」
「わあ、どっちも大好物。迷っちゃうかも」
「……結衣に嫌いなものなんてあるの?」
その問いに、顎に手を当て、真面目に考える結衣。辛いものは苦手だ、でも甘いものより苦いものが好きだとかなんとか口にする。私がいなければ、きっと独りで喋る変わった人として見られただろう。それでなくとも結衣は人の視線を集めるのだから。
トーンダウンしたピンクベージュの髪は、毛先だけがふわりとカーブを描いている。その曲線が柔らかい目元をさらに優しく見せる一方で、ブラウンを基調としたメイクが彼女をぐっと大人に見せる。
可愛さの中に、凛とした性格を感じる。そんな結衣が人々の目を集めないわけはなかった。
加えて、この人柄の良さだ。私の親友としては、本当にもったいないほど。
「やっぱり嫌いなものはないなあ。苦手なものはあっても、大抵は食べちゃうし」
「ふふっ、結衣は欲張りだもんね」
「違うよ。ちょっと食い意地が張ってるだけ」
思わず笑い声が漏れる。だが、次第に人が増える廊下の中で、それは小さな鳴き声に過ぎなかった。
講義棟から食堂までは歩いて五分ほどの距離がある。建物の壁画が、私たちが常日頃通う講義棟の目印で、その付近では多くの学生が待ち合わせをしたり、掲示板を眺めたり。
青髪や金髪、ヒールにポロシャツ、と様々な人が行き交う中で、私はふと視線を止めた。壁画の前、三段ばかりの階段がある、その最上段に見知った背中を見たのだ。
それは細い身体にしては、広くがっちりとした背中。皺一つない白シャツが光を反射して眩しい。
「なんで、ここに……」