運命は硝子の道の先に
「この時間だから店とか閉まってるけど、適当に酒とつまみ買って、二人で飲もう。この前のレストランの埋め合わせもしたいし、せっかくだから俺が何か作るよ。でもって、こっちに泊まればいい。次の日休みでしょ」
思いも掛けない提案だった。
他でもない蓮からの誘い。しかも、埋め合わせをしたいとも言ってくれている。本当であれば、喜んで向かうところだが。私には今、放っておけない事情がある。
「ごめん。今は無理なんだ」
「……そっか。立て込んでるから、」
「違う、けど。そうかも」
「……? よく分からないけど、何だか驚いたな」
「何で驚くの」
「一花に断られるなんて珍しいから」
「そうだっけ。まあ、よくよく考えてみれば」
「ま、そんなこともあるか。じゃあ、デートはまた今度」
「うん、また来週にでも計画しよう」
「そうだな」
当たり障りの無い会話。もうすぐ梅雨で憂鬱だとか、会社の同僚が失敗をして落ち込んでいただとか、友人は料理が上手いんだとか。そんな話題をぎこちなく繋げてみたものの、話が続く訳もなく、通話時間だけが無駄に長くなっただけだった。
どちらともなく終わりを悟り、保証も無い約束だけをして電話を切る。昔は朝夕関係無しに話していたのに、今や通話が終わってもスマートフォンは冷たいまま。私は深いため息とともに、ベッドに寄りかかった。
「最後はいつかな……」
もしかしたら来週、久しぶりのデートが蓮との最後となるかもしれない。
そう思うと、右手に持つ機械が急に重く感じられる。
断ったときの彼の声は驚きと、寂しさに満ちていた。