運命は硝子の道の先に
目を覚ましたのは、それから五時間ほど過ぎた頃。設定したアラームが頭上で時を告げていた。
「ん、何時だろ」
寝惚け眼で画面を見る。午前五時十三分だ。
「早……、まだ大丈夫でしょ」
掛け布団を引き寄せ、その中で身体を丸める。ブルーライトで刺激された瞳も、閉じてしまえば瞬く間に眠りに落ちていくような気がした。幸い、部屋には他の明かりもなく、カーテンから差し込む光もない。日は出ていないようだ。
「ん? 日が出ていないって」
梅雨の頃は、たいてい五時過ぎには日の入りを迎えている。それが、光がないということは、外は曇りか雨ということだ。今日は雨か。雨、雨、雨……
「傘! 持っていかなくちゃ」
私は声と同時にベッドから飛び起きた。ぎしりと音を立てるスプリング。勢いもそのまま、乱れたスカートの皺を伸ばす。きっと濡れたまま乾かさなかった髪もあらゆる方向を向いているだろう。でも、それに構っている暇は無い。約束の時間はとうに過ぎているのだ。
「……やっぱり、雨だ」
カーテンを開け、降り具合を確認する。怪しいとは思っていたが、雨はまだ激しい。
私は急いで部屋を出る用意をし始めた。
「えっと、鞄とスマートフォン、と。荷物はこれだけだよね」
チェスト周りやベッドの横まで、見落とさないよう確かめる。忘れ物は災いの元だ。
そういえば、私はいつの間にベッドで寝てしまったのだろう。昨日電話をしたところまでは記憶がはっきりしているのに。それ以降のことは思い出せない。あの強いお酒のせいだ、と昨夜の自分を責めつつ、私は玄関へと足を向けた。
スピードを緩めることなく、傘を片手にアパートの古い扉を開け、店への道を進む。
ヒロが待っている。ただ、その一心だった。