運命は硝子の道の先に

 意地悪な言葉を吐きながら、ヒロは私の肩を引き寄せる。そうやって、実に自然に、傘を伝って落ちる雫から私を守るのだ。やっぱり、天然ナンパ男。
 ……アキが言った、接客に関することは本当なのだろうか。
 真実を、確かめたい。

「ヒロ、聞いてもいい?」

「その発言自体、もう質問だけどな。特別にもう一問許してやろう」

「……何か、偉そう」

「は? 何がだよ。今は俺の方が立場だろ」

「ヒロって普段から上から目線で偉そうだよね」

「……あんまり言うと、発言も禁止にするぞ」

「えっ、駄目。それは困るよ。もう言わないから」

「はいはい、もういいから。早く聞けよ」

「えっとね、アキから聞いたんだけど」

「アキから、ね」

 片眉がぴくりと反応する。これは良くない兆候だ。ヒロは傘の柄を握り直すと、足音を少し大きくした。プレーントゥの革靴が雨水を軽く跳ね上げる。

「そう、アキから。な、何かまずかったかな」

「いや、別に。……ただ、最近お前ら仲良いよな」

「え、そうかな。ただの店員と客でしょ」

「……ふうん。それにしては長々と話してるじゃねえか」

「そりゃ店員と客だからね。話もしますよ。それを言えば、ヒロと話してる時間の方が長いじゃない。いつも応対するのはヒロだし、大学でも話してるんだから」

「そうか。確かにそうだな。それならいいんだ」

 その言葉と同時に、ヒロは顔を輝かせた。よほど機嫌を良くしたのか、傘をくるりと回すと、私の肩をまた寄せる。足取りも、さっきとは打って変わって軽やかだ。
 ……人には単純と言うくせに。
 と言えば、同じ文句を言われる気がして、少し笑うだけに留めておいた。

「それで、質問って何だよ」

「あ、そうだった。……あのね、正直に答えてね。ヒロって、本当に女性客を、騙してるの」

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