運命は硝子の道の先に

「……は、何言って」

 明らかな動揺を見せるヒロ。その歩みは次第に遅くなり、止まり損ねた私は雨に無防備に晒された。
 ……この反応は間違いない。アキの言ったことは本当だったんだ。
 一瞬弁明でもするかと思った。だが、ヒロは最初に会ったときと全く変わっていない。
 無礼で、無遠慮で、本当に生意気な男────

「お前、そんなことを聞きたかったのか」

「そ、そんなことって」

「俺は最初に言ったはずだ。店で見せる笑顔も態度も言葉も、全部作り物だって」

「じゃあ本当に、女性を騙して、」

「そう。騙して、惚れさせて、貢がせて。……それが店のためになるんだ、仕方ないだろ」

「そんなの、そんなのって。酷いと思わないの」

「……酷い?」

 ヒロは見えない誰かを嘲笑い、遠くを見据えた。その目には普段の茶目っ気なんて微塵もない。
 ただ残酷な心だけがそこにあった。

「騙される方が悪いんだよ。簡単に信じるから……」

「ヒ、ロ……」

 何か言わなければ。そう思うのに、声が出ない。何を言えば良いのか分からなかった。
 ヒロのしていることは確かに良くない。
 だけど、今のヒロの表情は悪人のそれとは全く違う。
 傷付けながら、自分も傷付いている。そんな顔だった。

 ヒロはどうして人を騙しているの────

 そう聞きたかった。だが実際に口から出てきたのは、自分の心からの疑問。

「私も、その一人だったの……?」

「……っ」

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