運命は硝子の道の先に
アキはもう何も言わなかった。
ただ胸元に紙袋を押し付けて、傘を開く。アパートの前には屋根があって濡れないはずなのに。
袋の中には泥の付いたスニーカーが入っていた。きっとヒロの私物だ。バーに忘れてきたのだろう。
黙り込んだ二人の間に、雨の音はやけに大きく響いた。
しばらく傘の裏側を見た後、アキは歩き始めた。露先から、ぽとりと雨粒が垂れてくる。
それは私の頬を伝い、顎先で止まった。
きっと、今の私の顔は浴室で見たときよりも、ずっと惨めだ。
「このままじゃ、」
「……」
「このままじゃ前に進めないから」
それだけを言い残して、アキはアパートを去っていった。
後に残された私はしばらく動けずに、思ったよりも小さい背中を呆然と見つめていた。