運命は硝子の道の先に

 幼子のように両腕を上げ、服を脱がされる。そして、狭い浴室に二人並んだ。
 普段だったら恥ずかしがっているのかもしれないが、今は意識を保っているのもやっとの状態。
 頭から浴びせられるシャワーのお湯が目に入らぬよう、ぎゅっと目を閉じて。必死に蓮の腕にしがみついた。蓮は何も言わぬまま、無防備な私の背中をただ撫で続けた。
 身体が温まったところで、はたと気付く。
 蓮の服も濡れているではないか。

「蓮、服」

「いいの、俺のことは。本当は温かいお風呂に入れたいんだけど、顔も青白いし、もしかしたら熱が出てるかもしれない。今は身体を温めるだけにするよ」

「……ん、ごめん」

 蓮はシャワーを当てるだけ当てて、一人部屋へと向かった。着替えを用意するのを忘れたようだ。ついでに自分の分も取ってきたようで、戻ってきたときには予備として置いておいた服に着替えていた。
 温まって落ち着いたせいか、少しずつ羞恥心が湧き上がる。
 私は戸口に立った蓮を見るや否や、胸と下腹部を手で隠した。
 だが、そんなことをしても後の祭りだ。蓮は今更、と笑みを零してバスタオルをこちらへ放った。それを急いで身体に巻き付ける。茶化しはしても、表情同様優しさを忘れない人だ。

 付き合って一年も経つのに、と他人なら思うかもしれない。
 でも、私たちはまだ一線を越えてはいなかった。
 高校生のときからそばにいたためか、成人したからといって、おいそれとは踏み込めないらしい。
 焦らずにいこう。そう微笑んだ蓮の言葉を信じていた。
 しかし、幾度となく裏切られ、その度に私では駄目なのかと思い悩んだ。
 私に勇気が無いから。魅力が足りないから、と。
 それでも、浮気相手とはただ食事をしただけ、君だけだよ、そんな薄っぺらい言葉に絆されて、流されて、気が付けば他の人に貞操を奪われてしまった。私は何という馬鹿なんだろう。私たちは何と惨めなのだろう。

 優しくしないで。そう言いたかった。

 今更善人ぶらないでよと。

 もし蓮が情愛の欠片もない人であれば、躊躇うことなく去っていける。
 相手に対して罪の意識も未練も無く、区切りを付けられるというのに。

 そうでなければ、私はこの恋情を、苦い初恋を何処へもっていけば良いというのだろう。

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