運命は硝子の道の先に
3 矛盾
久しぶりに穏やかな週末だった。
日曜日の昼に熱は下がっていたのだが、蓮は日が暮れるまでそばにいてくれた。
塩の効いた梅粥も、柔らかいうどんも。冷えた心を温めるには十分なほど美味しかった。
「君のことを助けたい」
その言葉通り、彼は私の我儘をよく聞いてくれた。
罪滅ぼし、もしくは点数稼ぎだったのかもしれない。だが、それでも嬉しいことに変わりはない。
身体の気怠さが抜ける程に、蓮に対する疑いは消えていった。
しかし、それを良しとしないのが親友である。
「何かあったの、一花」
「え?」
「少し晴れた顔してる。週末に良いことでもあったの」
月曜の二コマ目。講義室の空気は重く、学生の右手には形ばかりに握られたペンがつまらなそうに欠伸をしていた。連休明けはいつもこうだから、不思議ではない。
結衣はサイドに緩くまとめた髪をいじりつつ、私を見つめる。そんなに浮かれた顔をしていたのか。
私は正直に週末の出来事を話した。もちろんバーでのことも。
ヒロやアキとの関わりについては軽く聞いていた結衣だったが、蓮の話になると指が止まった。そういえば、先週は蓮との関係に区切りを付けるという話をしていたはずだ。こう主張が変わっては、気を悪くするのも当たり前のことだろう。
「そんなこんなで、蓮にもう一度機会を、」
「……馬鹿じゃないの?」
「……え」
「馬鹿じゃないのって言ってるの。一花にはプライドってものがないの? あれだけ傷付けられて、あれだけ涙を流して、それでもう一度機会をなんて。馬鹿にも程がある」
結衣は鞄を握ると、勢いそのまま席を立った。当然教授は驚き、注意をしようとする。だが、結衣の睨みには何も言えず、お腹が痛いという言い分をそのまま受け入れて、講義を続けた。
途端に騒つく講義室。普段は大人しい結衣の暴挙に、学生は眉を上げ、声を潜め、最後には首を傾げたのであった。私は私で、結衣をそのままにはしておけない。トイレに行きたいと申告し、急いで部屋を後にした。
外はどこも講義中。人の影もない廊下で、見慣れたピンクベージュを捜す。
しかし、その姿はどこにもなかった。
こういうときの結衣が行きそうな場所。
それは一つしかない。