運命は硝子の道の先に
歩くそばを多くの学生が駆け抜けていく。
目の前の女子学生は、友人とともに車に乗り込むところを見ると、これから遊びに行くのだろう。他にもサークル棟に歩いていく学生や資料を持って走る学生、とその向かう先は様々だ。
先ほどまで同じ講義室に押し込められ、同じ講義を受けていた学生にも、それぞれの人生、青春があるということだ。
だがさて、この放課をこれほどまでの緊張を抱え、過ごしている学生がいるだろうか。
アキは駐車場の中程まで来ると、身を翻した。風にシャツがふわりと吹かれる。
黒い瞳は瞳孔が開き、少なからず興奮状態にあるようだ。勿論、ここでの興奮とは緊張のことだが。
「一花」
「は、はい」
「……ごめん、逆に緊張しちゃったよね」
「……はい」
「俺も」
口元には薄らと笑みを浮かべているが、アキの目は笑っていない。
……一体、何を言われるのだろう。
「一花、あの日のことだけど」
「……ん」
「ごめん、な」
「…………え、」
「一花の気持ちを全く考えていない言葉だったと思う。突然予想もしてなかった事態が起きたから、自分の感情をそのままぶつけてしまったんだ。ほんと、我ながら情けないよ」
「いや、そんなこと、」
「本当にごめん」
アキは言葉と同時に頭を下げた。途端に周りの視線がこちらを向く。
「や、やめてください。アキは何にも悪いことしてないんですから。この前言われたことは全部事実だった、現実だった。アキの言う通り、私は自分からも現状からも目を逸らして、他の人に甘えてばかりだった。このままじゃ駄目だって分かったから。もう逃げません、自分のためにも、他の人のためにも」
「……一花」
頭を上げて、私を見つめるアキ。互いにしばらく何も言わないまま、数分の時が過ぎた。いや、数秒だったかもしれない。でも、その時間は講義終了一分前の秒針よりもゆっくり動いているようだった。
周りの視線が別に向かい出した頃。アキはゆっくりと口を開いた。
「分かった。この先、一花がどんな決断を下すにしても俺はそれを見守ることにする。でも、忘れないで。俺はずっと、ずっと一花の味方だから」
味方。
味方、か。
結衣も同じことを言っていた。でも、それとは違う。
結衣は親友だ。短くはない時間をともに過ごした人だ。
しかし、アキは……
「……どうして」
「え……」
「どうしてアキはそんなに私に親身になってくれるの」
「それは……」
途端に言葉に詰まる。アキは短い黒髪を少し撫でて、俯いた。
そして、意を決したように前を向く。
「俺は……、俺は一花に惹かれてるのかもしれない」
「……え」
「……っ、別に今すぐ付き合いたいとか、そういう気持ちは無いよ。でも、バーで話して仲良くなるうちに、一花の弱い部分、不安定な部分を支えていきたいって、自然にそう思うようになっていた」
また強い風が後ろから吹いてくる。
瞬間、舞い上げられた髪に遮られる視界。
はらりと額に落ちた髪の隙間から見えたのは、赤く染まったアキの耳と頰だった。