運命は硝子の道の先に
本題。
つまり、あの朝のことでも、月曜のことでもなく、言いたいことがあるというのか。
────もしかして、二人のことだろうか。あのキスのことを話したいのだろうか。
ヒロは上下の唇を離してはくっつけて、まるで言葉を選んでいるかのように。その行為にさえ、心拍数が上がっていく。額に嫌な汗が流れる。
「お前、男とヨリを戻すのか」
「……な、何で」
「アキから話を聞いて、お前ならそうするだろうって」
「……どうして、そう思ったの」
「お前は優しいからな」
「……っ」
「優柔不断だけど、誰かを傷付けることは好まない。もし本当に別れを選ぶのだとしても、できるだけ相手を傷付けない形をとるはずだ。だから、今は別れない。そう考えたんだが、違うか」
私は答えられなかった。
ヒロはただ確認しているのではない。私を、非難しているのだ。
でも、はっきりとは言えない。
蓮に対する私の想いがそんなに軽いものではないと知っているから。
元々心拍数が上がっていたためか、ヒロの態度に私の頭にかっと血が上る。
「そうだったら? 何か問題でもあるの?」
「ああ、ありありだな」
「どうして、」
「お前は結論を先延ばしにしているだけだ。それは優しさじゃない、ただの毒だ。しかも、時間が過ぎるごとに互いの喉を段々と焼き尽くしていく猛毒だ」
「そ、そんなこと、」
「男は良い、自業自得だ。今までの罪に自ら喘げば良い。だけど、お前は違うだろう。お前はただ相手への想いが強いばっかりに泣き寝入りしてただけじゃないか。一花、自分の首を絞めるような選択をしては駄目だ」
身体がびくりと揺れる。
私の言葉にヒロも声を荒げてしまったようだが、それだけが原因ではない。
思えば、ヒロが私を呼び捨てにしたのは初めてだった。
一度フルネームを呼ばれた以外は、お前、お前と乱雑に扱われていた。
……いや、彼の扱いは本当に乱雑だったのだろうか。
彼の本質はそうではない。一見ぞんざいに思えても、要所要所では丁寧で気遣い上手で、温かい。
「で、でも私だって全く悪くない訳じゃない。だって、ヒロと……」
「あ、ああ、そのことな」
ヒロは眉尻を下げて、親指と人差し指で髪を弄った。そして、ごもごもと口ごもる。
一体、何だと言うのだ。
「そのことなんだけどな」
「な、何よ」
「実は、……嘘なんだよな」