運命は硝子の道の先に

「別のこと?」

「そう。それも部屋に行く前のことだ」

「つまり、バーでのこと? 店用の態度で接していたってことなら私はもう、」

「違うんだ」

 ヒロは違う、と言って、唇を噛んだ。

「あの日に俺が出した酒は、ジントニック一杯だけだった」

「……一杯? でも、私は」

「そう。俺はストロベリーミルクを出した。でもあれは、ただのジュースだったんだ」

「ジュース?」

「アルコールは一滴も入っていなかった」

 一滴も入っていない。
 じゃあ、私が飲んだのは、ただの苺ジュースだったということ?
 でも、それが一体……

「それの何が悪いの?」

 きっとヒロはあまりにも酔っている私を見て、アルコールを出さなかったのだろう。次の注文は自分が選ぶと言い出したのも、私にそれ以上飲ませないためだったのだ。
 これはバーテンダーとして、人として悪い選択ではない。
 では、ヒロはどうしてそんなにバツの悪そうな顔をしているのか。

「虚偽のメニューを伝えることは褒められた行為じゃない。だが、それは許される範囲だ。俺がやってしまった最も良くない行為、そして嘘は」

「嘘は?」

「お前に代償行為を要求したことだ」

「だ、代償行為?」

「そうだ。本来なら俺は代金を請求できなかった。なぜなら既に払われていたからだ。だが俺は個人的理由であたかも俺が代金を支払ったように見せて、お前に脅迫紛いのことをした」

「ちょ、ちょっと待って。既に払われてたってどういうこと」

「アキだよ」

「……アキ?」

「お前の落胆のしように見兼ねたアキが払っていたんだ。会計のときは誤魔化すよう言われていた」

「そ、んな」

 気付かなかった。何も知らなかった。アキはあの夜から私を気に掛けていたのだ。
 酔い潰れた私の代わりに代金まで払って。
 アキの赤く染まった頬がまた思い出される。
 だけど、じゃあヒロはどうして私にそんな嘘を。

「個人的理由って」

「……」

「……個人的理由って何なの」

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