甘い媚薬はPoison
「岡村さん、悪いんだけど、彼女熱があるみたいだから、タクシー呼んで家に帰らせてくれない?」
早く帰らせなければと思い、岡村さんに愛梨を送るよう頼んだ。
愛梨は反論したが、俺は聞く耳持たなかった。
彼女の顔色を見ていればわかる。
起きているのもやっとの状態だ。
社長室へ戻ろうとすると、岡村さんが 「岸本?」と呼ぶ声が聞こえて振り返ると、愛梨がバタンと音を立てて倒れた。
「愛梨!」
咄嗟に愛梨を下の名前で叫んで駆け寄り、彼女を胸にかき抱く。
その顔は青白く、目の下には隈が出来ていた。
こんな状態の彼女を放ってはおけない。
愛梨を抱き上げると、騒ぎを聞きつけて杉山がやって来た。
「愛梨ちゃん、大丈夫なの?」
「ちょっと疲れが出ただけだと思うが、熱もあるし俺が送って行く。杉山、十時の『如月商事』との打合せ、お前に任せる」
「わかった。こっちは心配しなくていいから」
杉山が俺を安心させるように背中をトンと叩くと、今度は佐藤さんがこちらにやって来た。
「岸本が倒れたから送っていく。如月商事の件は杉山に任せたから、午前中の他の予定はキャンセルしてくれ」
口早に佐藤さんにそう告げると、俺は愛梨を抱き抱えて地下の駐車場に向かう。
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