甘い媚薬はPoison
お願いだから社長室に戻って……。お願い……。
心の中で必死に祈って、出来るだけ蓮くんの視界から消えるように小さくなって机の上の書類に目をやる。
「……いえ、まだです。これからやります」
児玉くんが真面目モードの顔になりすぐに席に着くと、蓮くんが突然私の手を掴んでギュッと握ってきた。
な……なに?
彼の行動に驚いて一瞬息が止まる。
周囲の人はこのことに気づいていない。
恐る恐る顔を上げて蓮くんを見れば、彼はいつもと変わらぬクールな表情で杏奈さんに声をかけ、彼女に気づかれないように私の手を離した。
「岡村さん、悪いんだけど、彼女熱があるみたいだから、タクシー呼んで家に帰らせてくれない?」
「わかりました」
杏奈さんが蓮くんに向かって頷くが、私は椅子からガタンと大きな音を立てて立ち上がり、彼に食ってかかった。
「勝手に決めないで下さい。熱なんかありません!」
蓮くんの言葉がショックだった。
私は蓮くんを避けながらも、心のどこかで優しい言葉をかけてくれるのを期待していたんだと思う。
今の彼はいつもと変わらない。
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